2011年2月20日日曜日

I LOVE 俳句 Ⅰ-(7)

水口 圭子


レコードのノイズふつくら星月夜  田中亜美


CDの便利さに惹かれ、随分前に切り替えて、レコードもプレーヤーも倉庫に片づけてしまっていた。それらのレコードを近いうちに知人に譲ることに決めたが、残すかどうか決めかねている1枚がある。

自分の小遣いで初めて買った思い出の1枚、ヴィヴァルディの合奏協奏曲『四季』で、イ・ムジチ合奏団演奏のフェリックス・アーヨ(ヴァイオリン)盤である。ジャケットのデザインも美しく、多分バロック時代のヨーロッパの田舎の暮らしを描いた4枚の絵がプリントされている。そして当時はごく普通のことだったが全曲楽譜付き、楽譜は宝の持ち腐れなのに、何とも贅沢な気分にさせてくれた。1965年に2000円で買ったが、今のCDの値段を考えると結構高価なもので、欲しいと思ってから手に入れるまでかなり時間がかかった記憶がある。

当時私が聴いていたオーディオ機器(?)と言えば、プレーヤーは30cmLP盤が台をはみ出すほど小さくて針はサファイア、アンプは真空管が丸見えの兄の手作り、折角のステレオ盤なのにスピーカーは1個という代物だった。それでも、学生寮の畳敷きの2人相部屋で聴くには十分だったし、大好きな音楽に包まれる至福の時を味わうことが出来た。

このレコードを取って置いても、再び聴くことは無いだろうと思う。機器も次第に良いものに買い替えて来たし、とても大切に扱ったから、多分疵はついていない。しかし、だからこそ、ちゃんと聴いてくれる人の所に行けば、たとえノイズが生まれるほど擦り減ったり疵が付いても、物の寿命を全うすることなるのかも知れない、などと思ったりしている。