2013年11月24日日曜日

2013年11月24日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(151)
       山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(148)
       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(151)

山手線・日暮里(その51)
根岸(上根岸82番地の家(35)「子規庵」)
文:山尾かづひろ 

開成中学










都区次(とくじ):西日暮里には東大合格者数で有名な開成中学があるのですね。

曾遊の地の師を真似てみしお茶の花 畑中あや子

江戸璃(えどり):その開成中学に戦前通っていた大矢白星師という俳壇を遠く離れて独特な吟行形態を貫いている伝統系の宗匠が「谷根千」をよく御存知でね、私は二十年ほど前に浄光寺に連れて来てもらったのね。この寺は空無上人が元禄4年に納めた銅製地蔵尊が有名なのだけれど、寺の門前には八代将軍吉宗が鷹狩りの際立ち寄ったと書かれてあってね、その際の休息の腰掛石もあるとされているので、墓地を通ってその腰掛石のある庭に入ったら、そこには三代将軍御腰掛石とあってね、矛盾を感じるわよね。白星師が住職に問いただしてもわからなかったのよ。私も今日カッコをつけて白星師みたいに聞いてみようと思ったら庭への通路を閉め切られちゃって中へ入れないのよ。
都区次:色々な人にまた同じ質問をされても面倒だからでしょ。今日はこれからどうしますか?
江戸璃:寺町の冬の夕焼けはしっとりとしてるわね。湯島あたりの大人の飲み屋で鰭酒を飲みたくなっちゃった。


浄光寺銅製地蔵尊









落ちゆく暾(ひ)石蕗の黄やがて闇の中 長屋璃子
神すでに帰りて谷中灯りをり      山尾かづひろ

尾鷲歳時記(148)

椿油の話
内山思考 

浦晴れて冬めくものは波がしら  思考


搾った油は右下の鍋に落ちる仕組み









椿の実を搾って油を取る作業が見られるというので、三木浦町へ出掛けた。尾鷲市内から車で二十分ほどのところである。今日は快晴で、波は少し立っているものの、風はそんなに冷たく感じない。湾の向こうに古江港が見える。

冬の鳥舞うや対岸にも港  思考

三木浦コミュニティーセンターの戸を開けると、10人ぐらいの男性女性が賑やかに仕事をしていた。見に行きませんか、と誘ってくれた同行の青木夫妻も恵子も、顔見知りがいるらしく、たちまち会話に溶け込んで行った。僕は写メールを撮りながら、作業がどういった行程で進むのかに注目した。

虫喰いは選られ椿の実の盛られ  思考

大きなスチロール箱いっぱいの椿の実がまず、ミンチ用の機器で細かく砕かれ、それを一度に二キロほど帆布製の袋に詰め蒸し器で蒸す。中に入った時、どこか懐かしいような香りがしたのはそれだったのだ。センターの三鬼主事に話を聞くと、十年前、地元の特産品をと有志が「おわせつばきの会」を立ち上げた頃は、苦心の連続で本場の大島まで見学に行ったとか。なるほどと頷いていると、いよいよ油搾りが始まった。

端然とあり一茶忌の圧搾機  思考

それは鉄製の特注品で、油圧によって20トンの圧力をかけることが出来るらしい。このあたりのメインの作業を行うのは、当会の会長で、地元区長も務める上村さんである。蒸し上がった実の袋がセットされ、少しずつ圧力がかけられると、やがてジワジワと淡い黄金色の液体が染み出して来た。

絞られて光を垂らす椿の実  思考


手荒れなどにお薦めと
三鬼(みき)さん













 
油の量は総重量の1%というから大変な手間である。しかし、搾った後も油分は残っているため、可愛い布袋に詰めて「肌癒やし」として製品化しているという。働いている奥様方のお顔の色つやが良いように思われたのも、きっとその効果だったに違いない。

冬の陽のとろりと椿油かな  思考