2015年10月4日日曜日

2015年10月4日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(248)
       山尾かづひろ  読む

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尾鷲歳時記(245)
       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(248)

寺家ふるさと村
文:山尾かづひろ 
挿絵:小倉修子  

月の出










都区次(とくじ):先月は良い月でしたね。

満潮の川面に月の昇りけり    戸田喜久子
名月やややに背ナ屈む観世音   飯田孝三
鹿島ならで大利根原の月見かな  光成高志

江戸璃(えどり):そうだったわね。まんまんと水を湛えた大川端に月を仰いだら素晴らしかったでしょうね。太陽暦と陰暦のずれで先月の27日(日)が十五夜だったけれど、「望」が翌日の28日(月)になり、十六夜(いざよい)が満月になっちゃったのよね。

都区次:ところで前回は浜離宮でしたが、今回はどこですか?

脱穀のほこりの霧のごと流れ 柳沢いわを
組み上げし稲架にもありし出来不出来  高田文吾

江戸璃:実りの秋だから私の独断と偏見で横浜市の「寺家(じけ)ふるさと村」へ行くわよ。ここは、横浜市青葉区寺家町にある「横浜ふるさと村」のひとつなのよ。寺家ふるさと村にはさまざまな施設が点在しているけれど、その中心とも言えるのが「四季の家」なのよ。「四季の家」は研修室や農産加工室などを備える施設で、レストランも併設しているのよ。「四季の家」から「ふるさとの森」の方へと足を向けると、雑木林の里山を背景に熊野神社の白い鳥居が見えるわよ。水田越しに見る鳥居周辺の景観が美しいわね。

小鳥来る影を落として水車小屋     甲斐太惠子
寺家村の稔り田黄金の波を打つ     石坂晴夫
低空に雀飛び交ふ稲田道        白石文男
谷戸の田を黄金に染めて案山子立つ   白石文男
稲架掛けてひっそりとなる谷戸田かな  近藤悦子
稲架襖村人総出の日和かな       油井恭子
脱穀の風立ち上がりもつれけり     甲斐太惠子
匂ひ立つ大地の恵み稲埃        石坂晴夫
夕日影落穂を拾ふ嫗かな        油井恭子

江戸璃:アクセスだけれど東京の人だったら渋谷から東急田園都市線で「青葉台駅」まで行って、鴨志田団地行のバスに乗って終点で降りるのよ。



稲架整然あたかも兵のごとくあり  長屋璃子
杵なしの水車回転烏瓜       山尾かづひろ

尾鷲歳時記(245)

林檎の里へ
内山思考

 秋の野の光集まるトンボ玉   思考

林檎狩り初めて












惠子と青木夫婦に言わせると信州へ旅行しよう、安曇野にあるいわさきちひろの美術館に行こう、と言い出したのは春先の僕らしいが、自分が何故そんな気になったのかちょっと記憶にない。でもきっとテレビを見るか本を読むかしてみずみずしいちひろの絵に触れたくなったに相違ない。自宅の駐車場から安曇野のホテルまでナビを設定すると、行程は430キロ6時間ということなので出発は朝の六時、ご夫婦を迎えに上がって、さあ新鮮でうれしい時間が動き始めた。

天気はこの日荒れ模様で翌日も回復の兆し無しとか。よりによって旅程の二日間だけ悪天候は不運なれど、惠子が希代の晴女なのでそれを頼りに、高速道を一路信州へと疾走した。小黒川のパーキングで朝食(きしめん二名うどん二名)を食べそれぞれの服薬を済ませ、またまた喋って走って着いた目的地で昼は本場の蕎麦を啜り、旅行本を持つ司令部(女性陣)の指図に従って「出張何でも観光団」はあちらこちら。

擬宝珠三つ・松本にて
結局、傘はほとんど使わずにちひろ美術館へ赴き、例のあの優しいちひろ画を充分に堪能し絵はがきをたくさん買ってホテルへ着いた。外は夜通し秋の嵐が吹いていたものの、明くる日はなんと見事な大秋晴れが僕たちを待っていて、「アマテラス惠子」はまたまた伝説を作ったのだった。



「晴女二十句」

長月の長野長袖嶺を指す
カンナの赤墓石の黒に雲垂れて
御僧の拾う紅葉や大楓
六十路とはもみづる木々や旅ごころ
外は雨額に「ぶどうを持つ少女」
人ら皆秋思にじませ美術館
三掻きほど蛙泳ぎを宿の風呂
旅連れの酒もすすむよ走り蕎麦
宿の飯松茸の香の強すぎる
新米の御威光に腹八分目
闇を揉む嵐に虫の脚力
秋蝶や信濃の空の雨後の青
結界を跨いで拾う胡桃かな
芋虫に白人少女絶叫す
赤に黄に里の花咲く旅の途次
林檎もぎたくて畑の主探す
農に生く若き手パキと林檎割る
ことさらに引力強き林檎畑
秋祭衆生の食は賑わえり
御籤引く秋のうららの晴女