2011年8月21日日曜日

2011年8月21日の目次

俳枕 江戸から東京へ(33)
             山尾かづひろ   読む
尾鷲歳時記 (30)                          
                   内山  思考    読む

私のジャズ (33)          
                  松澤 龍一     読む

俳枕 江戸から東京へ(33)

深川界隈/富岡八幡宮(深川八幡)
文 : 山尾かづひろ  

富岡八幡宮













都区次(とくじ): 今日は東京メトロの門前仲町駅から富岡八幡宮へ行ってみましょう。この八幡宮の周辺は門前町で賑やかな場所ですが、由来は何ですか?
江戸璃(えどり): 京都の高僧長盛上人が、夢のお告げを得て江戸へ下り、私費を投じて六万五百八坪を埋立て、寛永4年(1627)に祭神を応神天皇として当時の永代島に創建したものと伝えられているわね。
都区次: その当時から賑やかな場所だったのですか?
江戸璃: 違うわよ。江戸からは距離があったから賑やかではなかった筈よ。当時は神仏混淆で、別当寺の永代寺の仏像の開帳以外の普段はさびしかったのよ。そのさびしさを憂いた別当永代寺が延宝年間(1673~81)に白く塗った眉目(みめ)よき美少女を雇って掛茶屋と小料理屋を設け、参詣人の袖をひかせて酌の間に三味線を弾き、鼓を打ち、小唄や伊勢音頭を歌わせたので以後江戸中の評判になってメキメキと繁盛して現在のようになったのよ。
都区次:富岡八幡宮の境内には「横綱力士碑」、「大関力士碑」等の相撲関係の石碑がありますが?
江戸璃: この境内で貞享元年(1684)に江戸最初の勧進相撲が興行が打たれたことに因んでいるのよ。

横綱力士碑









深川の路地に細まり青嵐    長屋璃子(ながやるりこ)
横綱碑の背負ひ込みたる蟬時雨     山尾かづひろ

尾鷲歳時記 (30)

初めての尾鷲
内山思考

魂がワイン素潜りして遊ぶ 思考

尾鷲市内の希望通り












千葉県からやって来たという不思議なお爺さんに出会った。 市内の某所で偶然、一時間ほど話す機会があったのだ。無論、初対面である。 自分は八十歳で、関東方面に四つの会社を持っている、年商は十億ぐらいかな、ハハハ、と笑った。「わぁ凄いですね。それにお若い」 と一応、当たり障りのない相槌をうつ。

「尾鷲に来るのは初めてなんだけど、何も無いところだね」
「ハア」
「駅で降りてね、タクシーの運ちゃんに、どこか面白い観光名所はないのか、と聞いたら、無いっていうんだよ」
 「ハア」
「で、市内を二回グルッと回って貰ったんだけど本当に何も無い。でもね、そこがいいんだよ。何も無いところがいい。綺麗な海と山がこんなに近くにある。それだけでも素晴らしいんだよ」
「そうでしょうか」
「そうだよ。地方の人はさ。余所から旅行客を呼び込もうとして、いろいろ知恵をしぼるだろ。あれがよくない」
「ハア、でも…」
「アナタね、お客さんが来た時、何も御座いませんが、と言って精一杯のもてなしをするのが日本人のこころなんだよ」
 「なるほど」
「妙な下心で、取って付けたような接待してもね。その時は喜んでも二度は来ない」
「…」
「特産品なんて考えてすぐに出来るものじゃないの、ね?例えばおふくろの味って日常的な食べ物でしょ。離れて暮らすとそれが無性に恋しくなる。つまり歴史が必要なんだよ物事には」
名物くき漬け
(八頭の茎を塩漬けし、
赤紫蘇で色を付けたもの)

いちいちごもっともな話である。 持っている宝に気がつかないで遠くのものばかり欲しがる、そんな感じかな、とも思う。 別れ際に 「また尾鷲に来て下さいますか?」 と問うと、お爺さんは「フフ」 と笑って空を見上げた。

私のジャズ (33)

高僧セロニアス・モンク
松澤 龍一

MONK SUITE : KRONOS QUARTET
 (Landmark LCD-1505-2)












ジャズ界の奇人変人の一人とされているセロニアス・モンク。名前からして変だ。MONK、日本語では「僧」のことである。風貌もどこか宗教家ぜんとしたところがあり、ジャズの高僧などとも言われてきた。レコードを売らんがための宣伝文句ではあるが。ステージを徘徊する奇行で知られていた。他のプレーヤーがソロを取っている時、ピアノを離れあてもなくステージをうろうろすると言われている。来日のステージで、この奇行が見られたか記憶にない。


奏法が実にユニークだ。ピアニストのしなやかな指は無い。あるのは鍵盤を打つ棒のような剛直な指だ。時々調子を外したような音を出す。鍵盤のミスタッチなのか意図的なものかは分からない。40年代に「ミントンハウスのチャーリー・クリスチャン」というビバップ生誕の頃の貴重な音盤で聞かれるセロニアス・モンクは全然違っていた。テディ・ウイルソンばりの極めて流暢なピアノであった。いつ頃から、彼のユニークなスタイルが生まれたのだろう。この打楽器的奏法は、セシル・テーラー、日本の山下洋輔に引き継がれている。

モンクは演奏家だけでなく、作曲家として多くの名曲を残している。このCDはクロノス弦楽四重奏団と言うサンフランシスコに拠点を置く、純粋なクラシックのグループが「モンク組曲」と銘打って、モンクの名曲を演奏している。一瞬、バルトークの弦楽四重奏曲を聴いているかの錯覚に陥る。バルトークとモンク、どこか共通するものがあるのかも知れない。