2014年8月10日日曜日

2014年8月10日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(188)
       山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(185)

       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(188)

山手線・浜松町(その7)
文:山尾かづひろ 


瑠璃光寺本堂










都区次(とくじ): 前回は浜松町駅の西側の心光院でしたが、今日はどこですか?

萩の秋五重塔に思ひ馳す  佐藤照美

江戸璃(えどり):今日も浜松町駅の西側へ行くわよ。やはり13年ほど前に大矢白星師に連れて行ってもらった東京タワー近くの曹洞宗の瑠璃光寺へ行くわよ。
都区次:佐藤照美さんの掲句では山口県の萩の景をお詠みなっていますが、どうしてですか?
江戸璃:東京では瑠璃光寺は江戸中期の儒者・佐藤直方の墓があることで有名だけれど、元々は長州藩・毛利家の山口にある国宝・五重塔で知られる瑠璃光寺の別院として慶長19年(1614年)に開山されてね、参勤交代で藩主が江戸に詰めている時には菩提寺としての役目を果たしていたのよ。本尊は薬師瑠璃光如来で、達磨大師像も安置しているのよ。平成7年(1995年)に新築された山門、本堂、客殿があり、鉄筋コンクリート製の近代的な伽藍よ。客殿脇には錦鯉が泳ぐ池もあるわよ。
都区次:ところで山口の五重塔が気になりますね。
江戸璃:全国に現存する五重塔のうちで10番目に古くて、美しさは日本三名塔の一つに数えられているわね。室町中期における最も秀でた建造物と評されているのよ。ちなみに、日本三名塔の他2基は、奈良県の法隆寺と京都府の醍醐寺にある五重塔なのよ。また、檜皮葺屋根造りのものは瑠璃光寺の他に、奈良県の室生寺と長谷寺、そして広島県の厳島神社にもあるわね。

本院の五重塔













蕣(あさがお)の紺に寺の名瑠璃光寺  長屋璃子
閼伽桶に蕣の紺陰おとす       山尾かづひろ

尾鷲歳時記(185)

名曲中の名曲 
内山思考

椰子の実や銀河に近く揺蕩(たゆた)える   思考

リハーサル後の
ツーショット













ブルースギタリスト、濱口祐自さんのコンサートに行ってきた。和歌山県の那智勝浦から出ることなく、音楽活動を続けていた濱口さんの実力は地元では知られた存在だった(らしい)が、還暦を前にメジャーデビューするきっかけは久保田真琴、細野晴臣など一流ミュージシャンの後押しによるものだそうだ。音楽評論家のピーター・バラカンも絶賛している、という新聞記事を読んで僕はその演奏を聴いてみたくなった。

場所は熊野市の行きつけのレストラン。恵子と二人で少し早く行くと、長髪にバンダナの鉢巻をした男性が、音響機器をセットした小さなスペースでリハーサルを始めるところだった。スミマセンと前を横切ろうとしたら、どうぞどうぞと席をすすめてくれる。第一印象はベリーグッド・・・・で、弾きはじめたら魂消(たまげ)たのなんの。巧いなんてもんじゃない。僕もギターをちょっと触った経験があるから余計に凄さがわかる。多分、濱口さんは自らの感性をそのまま音に替える術を身に付けているのだろう。

二時間のコンサートは驚きの連続だった。まず、曲ごとにチューニングを変えるのだ。濱口さんは照れ屋らしく、演奏を終えると勝浦弁でジョークを交えながら、次の曲のために糸巻きを緩めたり締めたりする。普通はそんなことはしない。ギター本体にも思い切ったマイナーチェンジの痕跡がある。レパートリーの広さにも驚いた。ブルースはもとより、クラシック、ジャズ、カントリーから映画音楽まで自由自在の超絶技巧。しかもアレンジが絶妙だ。

CD&パンフレット
口癖のように「次は名曲中の名曲」と言って客席を笑わせ、笑わせた後は演奏で魅了する。時には歌う。そんな間の取り方もとても新鮮に思えた。そして「これは国歌やからみんなで歌いましょう」と前置きして奏でたのは唱歌「椰子の実」。ジャンルにとらわれず「いいものはいい」とする濱口さんの感覚にも僕は大いに共感を覚えたのだった。