2015年7月12日日曜日

2015年7月12日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(236)
       山尾かづひろ  読む

■ 
尾鷲歳時記(233)
       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(236)

深大寺・神代植物公園
文:山尾かづひろ 


深大寺の太師堂








江戸璃(えどり):早いものね、先週の9日10日は浅草のほおずき市だったのよ。

鬼灯市荷おろす朝の活気かな  小川智子
曲がっても又曲がっても鬼灯市 戸田喜久子
白熱灯点し四万六千日     野木桃花

都区次(とくじ): ところで前回の7月5日は水元公園でした。

青鷺や水あふらせて小合溜  大矢白星

都区次:今回はどこですか?

梅雨茸を蹴って武蔵野自然林    藤尾尾花 
水底のごと紫陽花のみちありし   松本光生
一礼し宝前を去る草取女      山本都風
写生子の一花に執す薔薇真赤    内海よね女  
小流れに日の斑ちらちらあめんぼう 高田文吾

江戸璃:何年か前の深大寺吟行の作品を思い出したら、梅雨寒の中で深大寺そばの熱いの啜ってみたくなって、私の独断と偏見で深大寺と神代植物公園へ行くことにしたわけ。JR中央線の吉祥寺駅からバスで行くわよ。武蔵野の風情を色濃く残す一角に立つ深大寺は、天台宗別格本山の寺院で、都内では浅草寺に次ぐ古刹なのよ。その起源は奈良時代、満功上人によって創建されたといわれ、白鳳仏(釈迦如来倚像、国の重要文化財)、梵鐘(重要文化財)などの貴重な寺宝で知られているわよ。

乗り継ぎて真紅の薔薇にたどり着く 戸田喜久子

江戸璃:寺の北側にある公園はもともと、東京の街路樹の苗圃だったけれど、戦後、神代緑地として公開され神代植物公園として開園したのよ。

七月の武蔵野の森風を呼ぶ      白石文男
梅雨しとど頭(かぶり)艶ます撫で仏 石坂晴夫
深大寺へ転げ落ちたるかたつむり   甲斐太惠子
本堂の軒へ身を引く青蜥蜴      油井恭子
ありふれた秘密を持ちぬ薔薇の雨   高橋みどり
薔薇の名のモンパルナスと旅そそる  近藤悦子

江戸璃:帰りはバスで京王線のつつじヶ丘駅に出て帰るわよ。


神代植物公園









夾竹桃日に抗ひて燃ゆるかに  長屋璃子
ランタナの花や梅雨明け近き空 山尾かづひろ

尾鷲歳時記(233)

昼寝のタネ 
内山思考 

百年を行ったり来たり夏の蝶  思考 

書家、六車明峰さんの筆












家にいて用事の無い日は、昼食後を読書の時間に充てている。たいてい読んでいるうちに眠くなるので、読書と昼寝を兼ねたひとときと言うことにもなる。いまだ現役で緊張の日常を過ごしている人から見れば、呑気な暮らしに見えると思う。でも僕はやっとこの時間と空間を手に入れたのである。

それに、天手古舞の忙しさや肉体労働(頭脳労働苦手)がもともと好きだから、そんな状況がいつでも来てイイよ、の心積もりは持っている。もっとも本人がそう思っているだけで、僕の身体的持久耐久力はかなり劣化しているだろうから、大きなことは言わずに置こう。さて本日机上に上がった一冊はデイヴィッド・ボダニス著『E=mc2 世界一有名な方程式の「伝記」』(早川書房)である。いつ読もうかいつ読もうかと大切にとっておいた本で、それを読んでしまうとストックは『絵の教室』安野光雅著(中公新書)だけになってしまう。 

「活字渇望症」とでも言うのか、書架に未読のものが無いと妙に息苦しさを覚えるのは困った性分だ。禁断症状?が現れた際は、保存棚から沖縄関連本か芸術、自然科学系統のなるべく内容を忘れていそうなものを取り出して気を癒やす。例によって読めない漢字は漢語林を、不明な言葉は広辞苑をドッコイショと持ち上げページを割って調べてメモ。クロスワード好きの桑名の姉が「晴雄さーん(僕の本名)、これ便利よオ」と電子辞書をしきりに勧めても、へそ曲がりの弟は「ふ~ん」と鼻息を落とすのみ、えてしてこういう人間は時代に取り残されて行くのだがそれも仕方なかろう。

時間と空間を測る
読み出した冒頭の書はやはり面白かった。ファラデー、ラヴォアジエ、ニュートンなど歴史的な科学者の栄光と苦悩のエピソードが絡み合う中、アインシュタインがいよいよ模索の中に「相対性理論」を発見、宇宙の真理は果たして、のあたりでイカン、睡魔が…、斯くして思考は広辞苑を枕にいつもの昼寝を始めたのであった。