2015年9月20日日曜日

2015年9月20日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(246)
       山尾かづひろ  読む

■ 
尾鷲歳時記(243)
       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(246)

浜離宮
文:山尾かづひろ  

浜離宮










江戸璃(えどり):早いわね、今日は彼岸の入りよ。
都区次(とくじ):前回は栃木県那須烏山市の簗でした。今回はどこですか?

法師蝉離宮の句座の静けさに   柳沢いわを
曼珠沙華足音うしろよりも来る  戸田喜久子

江戸璃:私はね、これらの句から今時分の浜離宮を連想してね。曼珠沙華やコスモスを見に浜離宮へ行きたくなったのよ。というのは表向きでね、少し前の猛烈な残暑で調子が狂った所に、この涼しさでしょう。体力・気力がすっかり凹んじゃってね。困っちゃったのよ。こう言うときの私の体調の直し方は、幕末の人間に成り切って、然るべき場所に立つことなのよ。そすると血が騒いできて途端に体力・気力が元に戻るのよ。徳川慶喜を知ってるわね、大政奉還の後もまだ曲折があって、鳥羽・伏見の戦いが起こってね。旧幕府軍が官軍に敗北してきたら、まだ兵力を十分に保持しているにも関わらず、自らが指揮する旧幕府軍の兵に「千兵が最後の一兵になろうとも決して退いてはならぬ」と命を下し、慶喜は戦うポーズをとりながら、こっそり大阪城を抜け出して、側近・側女を連れて旧幕府軍艦「開陽丸」で江戸に向かっちゃったのよ。その「開陽丸」を下船したのが浜離宮の「将軍お上り場」なのよ。と言うわけで浜離宮へ行くわよ。

秋桜昔を今に大手門       油井恭子
その昔浜御殿とか秋の苑     白石文男
秋天を水面に眺む伝へ橋     石坂晴夫
お伝ひ橋腰元見しと秋の鷺    忠内真須美
潮入の池に魚影秋日和      白石文男
潮入の池に入り来し秋の声    近藤悦子
コスモスの揺れ止まずして黄昏るる 甲斐太惠子
コスモスに潮の香届く浜離宮   忠内真須美
コスモスや潮の香絶えぬ浜離宮  石坂晴夫
下り船水面仄かに秋めける    甲斐太惠子
航跡の浅草へ延び天高し     高橋みどり

江戸璃:お蔭様で体力が戻ったので、開催中の浅草灯籠会へ行きたくなっちゃった。水上バスで行くから付き合ってよ。

コスモスや水上バスの来る時間  長屋璃子
ほろ酔ひの仲見世裏手鉦叩    山尾かづひろ

尾鷲歳時記(243)

書いて描いて
内山思考

月を見ておれば電話や地球から  思考

いつものメンバー













妙長寺から知り合いがお月見の宴をするから、当日の夜に使う行灯の絵と俳句を一緒に書いてくれませんか、と依頼が来た。これまでにも何度か経験済みなのでもちろん了承、昼食に和風カレーを用意しましたから惠子さんもどうぞのお言葉にも甘えることにした。本堂の長机には筆に絵筆に墨汁に水彩画セットその他が用意されていて、僕のノルマは半紙25枚である。まずは奥さんの入れて下さった熱いコーヒーと和菓子を頂いて雑談の中に作業開始。

秋の灯に光る厨の茶菓子かな
本堂の畳輝く秋彼岸

などと水茎の跡も金釘流で書き始めると、お上人は元高校の美術教師だからさらりと筆を走らせて秋刀魚やタコ、オコゼなどを鮮やかに、ご子息の副住職もさすが親の血、華麗にヒラメやトビウオ、あれあれ見事なジンベイザメまで白紙の上に泳がせる。なんでも「魚」を描くように今回は頼まれたそうだ。

じゃあ僕も

水平線の向こうが見たいトビウオよ
新妻は知る塩サバの焼き加減
岩手から陸を泳いでくる秋刀魚

ああ楽しい。こういう一見いい加減な即吟のスピード感がたまらなく好きなのだ。月も詠わなくては

踏みかえるたびに下駄鳴る月見かな
潮くさき月が近づく天満荘

チケットを頂いた
天満荘は今度「月と語る夕べ」が行われる場所である。惠子はお上人と副住職の絵に色をつける役目で、なかなかの色使いを見せている。それを横目に思考の俳句は少し脱線傾向

古い毛や買わず使いぬ古ブラシ

それを皆に開陳すると大喜び、すると悪い癖で調子に乗って

幽霊も芒の影で月を待つ

また受けたので

墓場暗すぎて幽霊けつまずく

と続ける。詠み人知らずだから無責任な点はあるが、遊びがないとつまらないではないか。そして最後が

夕空晴れて秋風吹けば愛

ワイのワイの賑わいながら全て書いて描いて、「ご苦労様でした。どうぞお台所の方へ」のひろ子奥さんの声で僕たちは彼岸前の一仕事を終えたのであった。