2015年9月20日日曜日

尾鷲歳時記(243)

書いて描いて
内山思考

月を見ておれば電話や地球から  思考

いつものメンバー













妙長寺から知り合いがお月見の宴をするから、当日の夜に使う行灯の絵と俳句を一緒に書いてくれませんか、と依頼が来た。これまでにも何度か経験済みなのでもちろん了承、昼食に和風カレーを用意しましたから惠子さんもどうぞのお言葉にも甘えることにした。本堂の長机には筆に絵筆に墨汁に水彩画セットその他が用意されていて、僕のノルマは半紙25枚である。まずは奥さんの入れて下さった熱いコーヒーと和菓子を頂いて雑談の中に作業開始。

秋の灯に光る厨の茶菓子かな
本堂の畳輝く秋彼岸

などと水茎の跡も金釘流で書き始めると、お上人は元高校の美術教師だからさらりと筆を走らせて秋刀魚やタコ、オコゼなどを鮮やかに、ご子息の副住職もさすが親の血、華麗にヒラメやトビウオ、あれあれ見事なジンベイザメまで白紙の上に泳がせる。なんでも「魚」を描くように今回は頼まれたそうだ。

じゃあ僕も

水平線の向こうが見たいトビウオよ
新妻は知る塩サバの焼き加減
岩手から陸を泳いでくる秋刀魚

ああ楽しい。こういう一見いい加減な即吟のスピード感がたまらなく好きなのだ。月も詠わなくては

踏みかえるたびに下駄鳴る月見かな
潮くさき月が近づく天満荘

チケットを頂いた
天満荘は今度「月と語る夕べ」が行われる場所である。惠子はお上人と副住職の絵に色をつける役目で、なかなかの色使いを見せている。それを横目に思考の俳句は少し脱線傾向

古い毛や買わず使いぬ古ブラシ

それを皆に開陳すると大喜び、すると悪い癖で調子に乗って

幽霊も芒の影で月を待つ

また受けたので

墓場暗すぎて幽霊けつまずく

と続ける。詠み人知らずだから無責任な点はあるが、遊びがないとつまらないではないか。そして最後が

夕空晴れて秋風吹けば愛

ワイのワイの賑わいながら全て書いて描いて、「ご苦労様でした。どうぞお台所の方へ」のひろ子奥さんの声で僕たちは彼岸前の一仕事を終えたのであった。