2015年6月7日日曜日

2015年6月7日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(231)
       山尾かづひろ  読む

■ 
尾鷲歳時記(228)
       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(231)

石神井公園(その1)石神井池
文:山尾かづひろ 


石神井










都区次(とくじ):前月は田原町のコースを案内してくれましたが、今月はどこへ案内してくれますか?
江戸璃(えどり):石神井公園へ行くわよ。
都区次:また、どうしてですか?
江戸璃:先月、大矢白星師が石神井公園へ橡(とち)の花と白雲木の花を見たいと出掛けて行ったのよ。

林なす白雲木の散らす花  大矢白星
栃の花鉾立満つる水辺かな 小林道子
離れ見る立姿よし橡の花  小川智子
沼杉の気根育み夏に入る  窪田サチ子

江戸璃:というわけで、私の独断と偏見で今月は石神井公園に行くことにしたのよ。もちろん、今月は橡の花や白雲木の花が花期を過ぎているのは承知の上よ。西武池袋線の石神井公園駅で降りたら南口に出て、商店街に入り、最初の信号を左折するわよ。坂を下りて行けば石神井池に出るのよ。

新緑に小舟を浸し石神井池   高橋みどり
六月や小さき浪間の舟着場   甲斐太惠子
ボート漕ぐ二人の世界驟雨過ぐ 石坂晴夫
遠き日を惜しむ夕暮貸しボート 油井恭子

江戸璃:石神井公園は石神井池と三宝寺池とからなる都立公園でね、石神井池は南側が緩やかな台地となっているほかは、三方が明るく開け、池はボート場になっているのよ。石神井池は、三宝寺池一帯が風致地区に指定された際、三宝寺池とともに武蔵野の景観を保護する目的で人工的に作られたものなのね。もともと三宝寺池から周辺の田んぼに水を引いていた水路であったのだけれど、それを昭和8年に人工的にせき止めて池としたのよ。

糸とんぼ風の切れ目に見失ふ 近藤悦子
夏草や伝説秘めし池の端   白石文男

江戸璃:付近には、元々武蔵野を支配した豊島氏の居城(石神井城)があり、同氏が室町時代に滅ぶまで在ってね。公園内に空堀の一部が残り、近辺には、豊島氏や豊島氏を滅ぼした太田道灌にまつわる遺跡や神社があるわよ。
貸しボート










枇杷熟れて人工池に舟数多     長屋璃子
目纏ひのぶつかりさうに飛んで来し 山尾かづひろ

訂正とお詫び
5月31日(230号)
本文9行目
正)石坂晴夫
誤)飯塚晴夫

以上のとおり訂正してお詫び致します。

尾鷲歳時記(228)

みちのくや・Ⅱ 
内山思考

一枚の津軽平野という代田  思考 


パンフ、マップいろいろ













東北三日目の朝、ホテルの11階の窓を開けると青森の街は霧に包まれていた。今日の旅程に八甲田ロープウェイがあるのでちょっと不安になるが、バイキングの朝食を済ませて車で走り出すと、次第に蒼空が現れて素晴らしいドライブ日和になった。尾鷲は朝霧などまず出ないから、そんな気象も旅ごころをくすぐる。

車内に相変わらず笑い絶えず。一時間後、僕たちは八甲田連峰の大パノラマを見渡して歓声をあげていた。なだらかな山稜、ところどころの干からびた(ような)残雪、何を見ても珍しい。植生が東紀州とは大いに異なりそれも話題の多くを占める。「連れてきて貰って良かったね」僕と恵子は顔を見合わせて笑った。それから奥入瀬渓流を間近に雑穀米カレーの昼食、十和田湖畔でリンゴのソフトクリーム、と食欲も満たしながら、次に目指したのは岩手県滝沢市だ。


木立で拾ったスカシダワラ(蛾の繭)
そこでお上人の知人、古文書研究家の藤沢昭子さんを訪ねるのがそもそも今回の旅の目的で、この夜は藤沢さんやサークルのメンバーと岩鷲山こと岩手山を借景にした「ゆこたんの森」に宿泊歓談、明ければ「小岩井農場見学」「わんこそば」に「宮沢賢治記念館」とまだまだ眼福食福は待っているのであった。

「三内丸山遺跡」
過去未来ひと捻れして輪となりぬ
時空(ときうつ)ろ中身詰まって縄文人
生れてより五感で活きて風を読む
獲物待つ石より硬き意志を持て
言霊のまだ幼くて口ごもる
男の眼黒曜石を得て光る
穿たれし翡翠の孔へ息通す
白き魔の季節は遠し栗の花
縄文の火が熟睡子(うまいご)の頬照らす
星空や干肉噛(しが)む村の長 

「弘前にて」
三重訛りみちのく訛りアップルパイ
初夏の日を廊下へ展げ色硝子
新緑の杜と林檎のパイの町
パイの店あまた五月の円周に
夏空に雪の高さを指す娘
だまし絵の街紫陽花へまた戻る
アップルパイに百態ありぬ麦の秋
窓外を園丁過ぎる夏館
名園や箱庭に似て喫茶室 

(以上、東北行百句より)