2012年8月5日日曜日

2012年8月5日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(83)
       山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(80)
       内山 思考   読む

■ 私のジャズ(83)        
       松澤 龍一   読む

■ 地区別現代俳句歳時記  
    機関誌「現代俳句」8月号より 読む
  

俳枕 江戸から東京へ(83)

愛宕山の周辺(その5)愛宕神社
文:山尾かづひろ 

東京の愛宕神社













都区次(とくじ): この愛宕神社は元々江戸にあったのではありませんよね。
江戸璃(えどり):その通り、京都の愛宕神社に愛宕信仰という火伏せ・防火の信仰があってね。徳川家康が慶長8年(1603)当時の未来都市・江戸の防火のために建立させたのよ。


夏蝶の社を拝す翅づかひ 吉田ゆり


都区次: 地方へ行くと愛宕神社と呼ばれる社がよくあるのですが、それらは京都の愛宕神社を分霊したものですか?
江戸璃: それが違うのよ。徳川の天下統一後、江戸に出てきた諸藩の藩主は幕府に忠誠を誓う意味もあって、参勤交代の折に、江戸の愛宕神社の分霊を国許に持ち帰ったのよ。そして地元の小高い丘に「愛宕神社」を祀ったわけ。
都区次:愛宕神社の総本社は江戸ではなくて京都ですよね。
江戸璃:京都の愛宕神社も江戸の愛宕神社も、同じ祭神ではあるけれども「どちらが総本社とかではなく、同格扱いとする」との幕府のお達しがあって現在に至っているのよ。

京都の愛宕神社













茂り中宮居の辺り人の声   長屋璃子(ながやるりこ)
江戸風鈴音なく揺るる社務所かな 山尾かづひろ 

尾鷲歳時記(80)

脱稿の夜
内山思考

どこまでが大阪の空夾竹桃  思考

物語の舞台は尾鷲ならぬ尾鷹









紀勢新聞に連載している連続怪奇小説「怪談屋妖子」の百話、つまり最終回を書き終えた。一昨年の10月から週に一度の掲載で、ちょうど今年の10月で終了の予定である。7月現在87話。一回が原稿用紙四枚ほどでトータル四百枚だから大して長編とは言えないが、俳句とはまったく関係ない分野なのである意味新鮮な思考が楽しめる変わりに、モチベーションを喚起するのが難しかった。

なにしろ、魑魅魍魎が跳梁跋扈する世界をイメージするのに 「お父さん、洗濯物片付けて」とか 「早く食事しないと冷めてしまうやないの」 と妻の甲高い声が飛んでくる環境ではとても集中出来るはずもない。それに夜は他の原稿を書きたい、新聞の二度見がしたい、テレビが見たい、息子に借りたコミックが読みたい、早く寝たい、と忙しい。

だからどうしても誰もいない午前中に心落ち着けて異次元モードに入る必要があるのだが、そんなチャンスはあまりない。毎回、時間をやりくりしてやっとあと十話を残すばかりになったら、今度は作中人物に対する思い入れが強くなって終わるのが淋しくなってしまった。主人公の妖子は妖魔界から来た妖怪で、人間の姿をしている時は色白で長い黒髪の美少女である。普段は清楚だが、闘いとなると無類の強さを発揮する。しかも巨乳、とまるきり筆者の好みのキャラクターに仕上げてある。だからいよいよ別れが辛い。それでもやっと思い通りの結末にして後は新聞社に原稿を届けるだけ、と思ったら急に脱力感に襲われた。

挿し絵も僕
テレビで二時間ドラマを見ながらパソコンゲームをしている妻に「怪談屋全部書いたで」と言ったが、こちらも見ずに 「あ、そう」とにべもない返事。そもそも、我が家の家族は誰も「怪談屋」を読んでないのだから話にならない。それはそれで気楽な面もあるのだが・・・・。誰かに脱稿を報告したくて、「風来」同人でメル友の玉記久美子さんに知らせると 「お疲れ様、あと淋しくなるのでは」と返してくれたので、少し気が休まった。何だか「歳時記」らしくないボヤキになってしまって反省。

私のジャズ(83)

弾き語り
松澤 龍一

 FREE SOUL
のレコード・ジャケット












このネフェルティティのような黒人女性、二―ナ・シモンと云うジャズ・ピアニストである。弾き語りで歌も唄うようになった。歌の方が有名になり、二―ナ・シモンと云えばジャズ・シンガーと云われるようになった。ピアノも個性的だが、歌はもっと個性的である。野太い声、野性味溢れる節廻し、これほど黒人を前面に出した唄い方をする歌手を他に知らない。ブルースとも違う。エラやビリー・ホリデイとも違う。ウーマン・リブ運動や公民権運動などを経て、新しく勝ち取った黒人女性の心意気なのだろうか。

50年代、60年代には人気が高かった。事実、二―ナ・シモンを聴いてジャズ・ファンになった人も結構いた。でも、私自身はあまり好きになれなかった。ピアノももう一つ、歌に至っては、あまりの中性的(あるいは、男性的)な声に辟易となる。



数年ぶりにCDを買った。岡千秋の弾き語りのCDである。岡千秋は演歌の作曲家で、多くのヒット作を書いている。彼がピアノの弾き語りで演歌を唄っている。船村徹もそうであったが、演歌の作曲家は、声量とか声の良し悪しは別にして、歌が上手い。どんな曲を唄っても歌心に溢れている。岡千秋の声は誰が聴いても悪声である。でも、そのだみ声の後ろに心がある。歌の心がある。演歌の心がある。
ユーチューブで一曲聴いて、矢も盾もたまらずCDを買ってしまった。どの曲も心に沁みる。やはり、私の心の底には、57調の韻律と5音階の調べが流れているようだ。歳をとるごとにそう感じる。






列島春秋

地区別現代俳句歳時記
「現代俳句」平成24年8月号より

◆中北海道 つぎはぎの平和で良いか青胡桃    大場 榮朗
◆東北海道 十勝産と聞かれ新馬鈴薯のでかい顏  笹原 瑞子
◆南北海道 白昼を沖に秋くる以下省略      佐藤 晴峰
◆北北海道 共に生き共に逝きたり原爆忌     清治 法子


◆青森   両腕も両脚も瓦礫八月逝く      徳才子青良
◆岩手   噴水に見えかくれしてじゃじゃめん店 三田地節子
◆秋田   カンナの向こう海の光は永久に    鈴木 修一
◆宮城   お葛掛けは妣の定番盆近し      佐々木和子
◆山形   前略のあとが続かず雲の峰      木嶋 玲子
◆福島   日にとろい青大将おまえ寝不足か   伊藤ユキ子


◆茨城   筑波嶺の溢れず涸れず岩清水     菊田 徳王
◆栃木   盆踊り闇のうらがわ風を溜め     和田 璋子
◆群馬   象潟は遠し訪いたし合歓の花     山田 照子
◆埼玉   蝉時雨眠りたいので眠る家      越川ミトミ

◆千葉   鶴ともゼロ戦とも八月の折り紙    細野 一敏
◆東京都区 桃届く十八歳のままの仲       小高 沙羅
◆東京多摩 物忘れするまで生きて遠花火     清水万ゆ子
◆神奈川  滴りや相模横山九里の土手      加藤 房子


◆富山   かなかなは日暮を朗唱しています   小池 弘子
◆福井   夏落葉病める地球へ手紙かな     西又 利子
◆石川   鬼となる御陣乗太鼓能登の夏     森  悦子
◆甲信   連山の影濃くなりぬ蕎麦の花     山下  廣
◆新潟   月入れて三尺玉の果てにけり    長谷川智弥子


◆静岡   乳房持つ埴輪大夕焼の中       石橋 朝子
◆愛知   八月をはみ出してゐる天守閣     津嶋  和
◆岐阜   晩夏なり乗鞍岳のどっしりと     水口 武彦
◆三重   新涼や島へ大きく舵をきり      平賀 節代


◆滋賀   木曽どのの粟津が浜や日雷      長尾 向季
◆京都   水引草鎖で閉まるくぐり門      山本  正
◆大阪   ふるさとは風でつながる
赤とんぼ   佐藤 公子
◆兵庫   山開き女の子の土産富士の鈴     川嶋 芳重
◆奈良   原爆忌三輪山黒く鎮もりぬ      上藤おさむ
◆和歌山  雨に昏る納戸のとぼそ蚊遣香     宇田 篤子


◆鳥取   はまなすの南限といふ濃紫      中田 七重
◆島根   稲葉ずれ銅鐸幽かに共鳴す      柏谷 千恵
◆岡山   栄転の歩幅となりし朴の花      花房八重子
◆広島   被爆アオギリ包みきれない傷正中に  谷口 道子
◆山口   蝉しぐれ白船句碑の踞る       前田 雅治


◆徳島   刺青の龍の寝てゐる蚊帳の中     椰子 次郎
◆香川   曼珠沙華空母誕生寺のまわり     成瀬 雄一
◆愛媛   踊る孫野球サンバに親子の絆     加藤 公子
◆高知   涼しげな男出てくる夢二展       池  長子


◆福岡   筑後川天の川双子のようにおしだまる ますだよりこ
◆長崎・佐賀 精霊流しフライパンに跳ねる肉    中尾よしこ
◆熊本   千人灯篭老いも若きも女なり      伊藤  幸
◆大分   風を切る扇子踊りの輪に入り      谷川 彰啓
◆宮崎   親にらむこと
増やしいる夏休み     中島 偉夫
◆鹿児島  ばっさりと髪切ってみる原爆忌     春田理恵子


◆沖縄  これよりは入ってはならぬまんじしゃげ 中田みち子