2012年10月7日日曜日

2012年10月7日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(92)
       山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(89)
       内山 思考   読む

■ 私のジャズ(92)        
       松澤 龍一   読む

俳枕 江戸から東京へ(92)

三田線に沿って(その7)樋口一葉と半井桃水
文:山尾かづひろ 挿絵:矢野さとし

桃水旧居近くの平河天満宮


















都区次(とくじ): 一葉は本郷で小説家を志し、名を残したとのことですが、指導者的な人は居たのですか?
江戸璃(えどり): 居たのよ!半井桃水(なからいとうすい)という対馬出身の東京朝日新聞の小説記者で、一葉にとっては指導者であって恋人でもあったのよ。一葉は桃水が妹の友人・野々宮起久(ののみやきく)の女学校の級友の兄という縁で指導を受けはじめたのよ。

月天心執筆の灯のまだ消えず 佐藤照美

都区次:桃水が一葉に指導したという最初の実績は何ですか?
江戸璃:桃水は麹町・平河天満宮の近くに住んでいたことがあって、その麹町時代の明治25年3月に桃水主宰の雑誌「武蔵野」に一葉の処女小説「闇桜」を載せてやったのよ。そして何と同じ3月に一葉の住む菊坂近くの西片町に転居してきたのよ。
都区次: その後二人はどうしたのですか?
江戸璃: それがね、二人は独身でしょう。当時、結婚を前提としない男女の付き合いは許されない風潮でね。うわさの広がった一葉は「萩の舎」の師匠・中島歌子に叱責されて絶交せざるを得なくなっちゃったのよ。
半井桃水












菊坂や恋実らざり秋袷 長屋璃子(ながやるりこ)
十三夜軒々低き坂の町 山尾かづひろ 

尾鷲歳時記(89)

須賀利のことなど
内山思考 

少しづつ景色に遅れ秋の蝶   思考 

須賀利港を出る巡航船
尾鷲市の広報紙



















須賀利は尾鷲の飛び地である。細長い湾の奥にある集落は、漁業が栄えた頃は住民数も多かったが、今はピーク時の五分の一ほど。陸路だと隣の海山町(現・紀北町)を経て山越えをせねばならず、道路が整備された後も時間のかからない巡航船が長い間活躍した。

妻の同僚だったSさん(男性)も須賀利出身で高校時代はもっぱらこの海路通学だったそうだ。巡航船の船長がおじさんという気楽さもあり、客が自分だけの時など当時流行っていた舟木一夫の「高校三年生」を黒潮に向かって大声で歌い、青春を謳歌していたのだとか。

Sさんの歌好きは筋金入りで、42才の厄祝いの折り、友人たちとカラオケに繰り出して「あゝ上野駅」を手始めに42曲歌ったという伝説の持ち主である。子供同士が同級生と言うこともあって家族ぐるみの付き合いをしていたが、今年初めSさんは突然の病で急死してしまった。好人物だっただけに惜しむ声が多く、付き合いの長かった妻は今でもSさんの話題になると涙ぐむ。

ロケを伝える新聞記事
尾鷲港と須賀利を結ぶ巡航船は長年の利用者不足のために先頃廃業となり、百年の歴史に幕を下ろした。ところで昨年、静かな須賀利が大いに活気づく出来事があった。映画のロケがやって来たのである。題名は「千年の愉楽」中上健次の同名小説の映画化で、監督は「キャタピラー」などで有名な若松孝二氏だ。

主演は寺島しのぶ。他に高良健吾、高岡蒼甫など今を時めくイケメンスターたちが見られるとあって、近隣の女性ファンが連日須賀利に押し掛けているとの噂に、僕は紀勢新聞社嘱託記者の肩書きを貰ってロケ・レポートの取材に出掛けた。

仔細をここに記すスペースが無いのが残念だが、若松監督は外観に似ず(失礼)とても親切な方で、機嫌よく話して下さった。そして、取材は駄目、とスタッフに釘を刺されていた寺島しのぶさんにも突撃取材を敢行し、コメントを貰うことに成功した。でも僕は緊張のあまり、メモを取る手帳から終始顔を上げられなかった。

私のジャズ(92)

主張するミンガス
松澤 龍一












ャーリー・ミンガス、ベーシストである。チャーリーとの愛称で呼ばれるのを嫌い、チャ―ルズ・ミンガスと称するようになった。このあたりもミンガスのミンガスたる所以である。とにかく主張するベーシストである。ベーシストとしての腕はちょっと疑問、レイ・ブラウンなどと比べればはるかに劣る、と思うのだが。彼が活躍した時代は公民権運動で黒人が権利を主張し始めた頃、マックス・ローチやアービー・リンカーンなども同様に彼らの演奏を通じて、黒人の権利を主張していた。この主張するジャズ、ジャズとしては大概つまらない。良いと思う演奏や作品にお目にかかったことが皆無である。

「ピテカントロプスエレクトス(直立猿人)」と名付けられたミンガスのアルバムは、その奇妙なタイトル名により、話題を呼んだ。直立猿人に託し、黒人の自立、蜂起、社会的地位の向上を主張しているのだろうか。とにかく、タイトル曲に於けるジャッキー・マクリーン(アルトサックス)やJ.R.モントローザ(テナーサックス)の荒々しいトーンを聴けば、何かを声高に主張しているようにも聞こえるが。でも、ジャズとしてはちょっと作り過ぎで面白くない。




次の曲は、一時幻の名盤だったキャンディドと言うマイナーレベルから発売されたMINGUS PRESENTS MINGUS の中の一曲。人種差別主義者と言われた南部のある州の知事を揶揄している。