2012年7月15日日曜日

2012年7月15日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(80)
        山尾かづひろ 読む

■ 尾鷲歳時記(77)
        内山 思考  読む

■ 私のジャズ(80)        
        松澤 龍一  読む

俳枕 江戸から東京へ(80)

愛宕山の周辺(その2)西久保八幡
文:山尾かづひろ

 
西大久保八幡









都区次(とくじ): 次は西久保八幡へ行ってみましょう。
江戸璃(えどり): 場所は神谷町駅の反対側だから、いま来た道を戻るわよ。西久保八幡は平安時代の寛弘年間(1004~1012)に京都の石清水八幡(いわしみずはちまん)の神霊を請じて霞が関あたりに創建されて、長禄元年(1457)太田道灌の江戸城築城に際して当地へ遷座されたのよ。
都区次: 徳川家康の江戸入府後に何か変化はありましたか?
江戸璃: 元々は神社ではあるけれど、徳川の菩提寺の東叡山寛永寺の末寺になっちゃったのよ。その後、明治維新の神仏分離令で神社として独立したのよ。


御社の縁起読み入る梅雨晴間 小熊秀子


都区次:この神社には貝塚があるそうですね。
江戸璃:社殿の裏手の斜面にあるのよ。ここの貝塚は戦前から知られていたけれど、昭和58年に東京都が発掘した結果、縄文時代後半期半ばの3700年くらい前ものと分ったそうよ。有名な大森貝塚と共通の土器もあって交流が推定されているそうよ。


男坂女坂












まくなぎを打ち払ひつつ貝塚へ 長屋璃子(ながやるりこ)
梅雨鴉貝塚へ降り睨みけり   山尾かづひろ 

尾鷲歳時記(77)

くだものの思い出
内山思考

手花火の光の中にみんな居る 思考

西の瓜と南の瓜












「ただいまあ、これもらった」 仕事から帰って来た娘が重そうな紙袋を差し出した。スイカとカボチャが入っている。漢字で書けば西の瓜と南の瓜である。同僚に貰ったのだそうだ。まだ梅雨も明けぬのに、どちらも歳時記では初秋の恵みである。俳句人にとってこの7月8月あたりの季節感が一番ややこしい。毎年梅雨明けになって「さあ、これからワイルドな夏だぜ」とタレントのスギちゃんのように目を輝かせても、8月になればすぐ立秋がやってきて、どこか心が萎えてしまうのだ。8月は晩夏だろう、と少年気分がいつまでも抜けない僕は今年もやっぱり愚痴りたくなってしまう。

さて、食べることの大好きな僕だが、くだものにはあまり執着がない。しかし思い出は沢山あって、例えばスイカは、十津川の実家で祖父母がよく作っていたけれど、なにせ急峻な傾斜畑だから、蔓を切った後幼い僕が抱き損ねたりするとあっという間に転がって、下の田んぼへダイビングしてしまった。その勢いのある軌跡は今でも目に焼き付いている。

桃剥きは
妻の子供時代
からあるそうだ
そして桃。小学校の講堂で見たパール・バック原作の白黒映画「大地」で主人公とヒロインが、もぎたての桃にかじりつくシーンがあり、それに感化された僕は、次に桃を食べた時皮を剥かずにかぶりついた。すると何とも歯応えがいい。しばらくそれを気に入っていたが、あとで考えると、映画で食べていたのはどうもスモモだったようである。そのスモモ、祖父の葬儀で供えてあったのを調子に乗って10個ほど食べたら、腹が冷えたらしく一晩中苦しんだ。あれも忘れられない。

ブドウは母の実家に遊びに行った時に、これも仏壇に供えてある甲州ブドウを一粒だけ、と思って口に入れたらあまりに美味しくてついに全部食べ尽くして母に叱られた。スイカでもう一つ、やはり母の実家で従兄が一つくれたのに、欲張ってもう一つくれ、と畑に入って一番大きなのを取ろうとしたらスイカと一緒に下肥を掴んでしまったのには参った。思えば自業自得の失敗ばかり、全ては遠い昔の出来事になってしまった。

私のジャズ(80)

ロシア・中東欧ジャズー中東欧編
松澤 龍一

モラヴィアの紋章












前回に引き続き、早稲田大学ロシア文学会の公開講演会のさわりです。今回はその中東欧編。

チェコはジャズが盛ん。何しろ現職のヴァーツラフ・クラウス大統領が大のジャズ好きで、自分でジャズ・コンサートを主催し、挙句の果てにその司会までしてしまう悪乗りぶりである。何とも楽しい国だ。ソ連の戦車に蹂躙されたプラハの春の暗い過去など、遠い、遠い昔の話になってしまったのか。そう言えば以前プラハを訪れた時、街のあちこちにジャズ・コンサートのポスターが貼られているのを思い出した。

一口にチェコと言っても色々ある。大きく分けて、チェコ共和国の西部はボヘミアと呼ばれ、東部はモラヴィアと呼ばれる。それぞれに独自の文化をもち、言語も違うらしい。昔はこれにスロバキアも一緒になっていてチェコスロバキアと呼ばれていた。随分と混沌とした寄せ集め国家だったに違いない。でも、美貌の体操選手、チャスラフスカを生んだのはこのチェコスロバキアである。モラヴィアは世界的に有名な音楽家、ヤナーチェフ、経済学者、シューペンタ―を輩出している。

今回紹介するエミル・ヴィクリツキーもこのモラヴィア出身のジャズ・ピアニストである。バークレイ音楽院で学んだと言う本格的なジャズ・ピアニストで、結構名前が知られているらしく、来日して公演もしている。(私はこの講演を聴くまで知らなかったが)

下記音源の演奏を聴くと素晴らしいジャズ・プレーヤーであることが分かる。素晴らしい!共演しているドラマーもベーシストも芸達者で、グループとしても一流である。コルトレーンの前衛化とマイルスのロック化でアメリカ本土では衰退したと思っていたジャズがこんなところで生きている。今までエミル・ヴィクリツキーを知らなかった不明を恥じる。



こんな楽しい演奏もしている。