2015年6月14日日曜日

2015年6月14日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(232)
       山尾かづひろ  読む

■ 
尾鷲歳時記(229)
       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(232)

石神井公園(その2)三宝寺池
文:山尾かづひろ 


三宝寺池










江戸璃(えどり):早いものね、昨日の6月13日はもう太宰忌だったのよ。

降り癖のいよいよつのる桜桃忌  笈沼はるを
夕浪は斜陽の序曲太宰の忌    内海よね女
深酔の濡髪額(ぬか)に太宰の忌 山本都風

江戸璃:都区次さんも不摂生を止めて、健康に気を付けないと若くても本当に御陀仏になっちゃうわよ。梅雨に入ったら尚更よ。

「蛇善」は看板にのみ梅雨の月  戸田喜久子

都区次(とくじ):ところで5月に白星師の歩いた石神井公園をひと月遅れで案内していただけるとの事で、前回は石神井池でしたが、今回はどこですか?

河骨や池の出島に水神社      大矢白星
橡咲いて空の広さにとどまりぬ   藤本明雲
白雲木なにやらゆかし花の反り   小林道子
軽鳧の子の冒険心も見え隠れ    寺田啓子
河骨や三宝寺池橋映す       佐藤佳子
橡大樹九輪の如き花咲かせ     梅山勇吉

江戸璃(えどり):三宝寺池へ行くわよ。この池は井の頭池、善福寺池と並び、武蔵野三大湧水池として知られているのよ。三宝寺池は古来より、武蔵野台地からの地下水が湧き出る池として存在していたのね。三宝寺池は石神井川の水源とされていてね。流域の豪族であった豊島氏も、この水の支配の為、この池の南の台地に石神井城を築城した、とされているのよ。平成8年(1996)に、「三宝寺池の鳥と水と樹々の音」が、環境庁選定の「残したい日本の音風景100選」に選ばれているのよ。

落城の悲話ありし池夏日影   白石文男
睡蓮の花に面影残る人     高橋みどり
なぞ多し城跡めぐり青葉風   油井恭子
河骨の莟隠れり姫の魂     近藤悦子
定年に価値の逆転枇杷撓    石坂晴夫
睡蓮の無明くぐり来ひらきけり 甲斐太惠子

三宝寺池には石神井城落城の際に豊島氏の姫、照姫が身を投げたと言う伝説があり、練馬区では照姫を偲んだ照姫まつりを昭和63年(1988)より毎年4月~5月に開催しているわよ。

木道











でで虫を守り守られ水神社 長屋璃子
城跡に姫の伝説蛇の衣   山尾かづひろ

尾鷲歳時記(229)

雨音を聞きながら 
内山思考 

筆立に種々の筆立て夏木立   思考

牛乳パック製の筆立て









朝から縁側の先で雨音がボトボト絶え間なく続いている。東海地方もいよいよ梅雨入りしたようである。明ければ本格的な夏がそこにいるはずだ。春先の予定では今頃、恵子と二人で安謝のアパートにいるはずだったのに、僕の歯の治療が思った以上に長引きそうなので、沖縄行きはしばらく延期することになった。口内の隅々までちゃんと治療してから「バンボシュの焼き肉(食べ放題)」や「みのやのナーベラ(へちま)定食」や「食堂グミのフー(麩入り)チャンプルー」をガツガツ平らげたいではないか。でも時々、声が聞きたくてヒロコさんやタカシさんに電話して、こんなに声は近いのにね、などと笑いあったりする。そしてあとでさみしくなる。

振り返ると沖縄の反対方向の東北への旅も少しずつ過去の出来事になりつつある。一応、「みちのく百句」は作ったものの詠い残した風景やエピソードがたくさんあって、それらを記憶の薄れないうちに句にしておかなければ勿体無い。「行ってきました」「美味しかった」「楽しかった」だけで済ましたら、せっかくの体験が無駄になる。旅は言わば食材集めで、帰ったらそれらを使ってどんな料理を作るか、が大事なのだと思う。

百杯以上食べると
貰える
別に作品でなくても日常を見直す要素になればそれはそれで行った甲斐があるというものだが。先日、知人に「岩手でわんこそば百八杯食べた」とメールしたら折り返し「わんこそば百八句では?」と返事が来た。ハハハと笑ってからそれも面白いと思ったので挑戦することにした。途中まで辿った北斎の「冨嶽三十六景(46枚)各十句」はあと十九景を残していて、その旅には「わんこそば百八句」の後にまた戻ることになる。