2013年10月6日日曜日

2013年10月6日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(144)
       山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(141)
       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(144)

山手線・日暮里(その44)
根岸(上根岸82番地の家(28)「子規庵」)
文:山尾かづひろ 
 
東大寺










都区次(とくじ): 子規は旅館・角定で御所柿を食べていたら東大寺の鐘の音を聞き、翌日、法隆寺へ行き

●柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺

の、あまりにも有名な一句が出来たわけですが、奈良では他にどんなのがありますか?
 
  自由不自由奈良路の秋の終りける 畑中あや子
 
江戸璃(えどり):奈良の晩秋を堪能(たんのう)してちょうだい。

【東大寺近くの角定にて】
●奈良の御所柿くへば鹿が鳴く
●秋暮るる奈良の旅籠や柿の味
●長き夜や初夜の鐘撞く東大寺
(初夜:午後8時頃)
●鹿聞いて淋しき奈良の宿屋哉
●大仏の足もとに寝る夜寒かな
 
【法隆寺にて】
●稲の雨斑鳩寺(いかるがでら)にまうでけり
●行く秋をしぐれかけたり法隆寺
●行く秋や一千年の佛たち
●行く秋や奈良の小寺の鐘を撞く
●行く秋や奈良の小店の古佛
●行く秋や奈良は古寺古佛
●行く秋を雨に氣車待つ野茶屋哉
(「病餘漫吟」では「氣車」が「滊車」となっているわよ)

都区次: ところで今日は日暮里からどこへ行きますか?
江戸璃: まだ時間が早いから横浜の寺家ふるさと村へ行って稲刈を見ない?ついでに休憩所で新酒を啜りたくなっちゃった。
 
法隆寺








里山の一宇鳩吹く風の中   長屋璃子(ながやるりこ)
稲刈って峡の夕日の大きかり 山尾かづひろ

尾鷲歳時記(141)

ハゼのはなし
内山思考 

櫨紅葉素直な毒はすぐに効く  思考

もう少し近づいて
撮りたいけれど













ハゼ紅葉はとても美しい。スマートな葉っぱの薄い緑と朱色の配合が絶妙で、高木なんかだと見とれてしまうことがよくある。いわゆる名所と呼ばれる観光地の紅葉も素敵ではあるけれど、ハゼ紅葉にはまた違った風情が感じられるのである。しかし、ご存知の通り、ハゼの木はヤマウルシとも呼ばれ、樹液が肌につくと炎症を起こす、つまりかぶれてしまうのである。症状には個人差があり、それ程でもない人もいるのだが、少年時代の僕は幾度か痛い目に、いや痒い目にあったものだ。

ハゼの小木は真っ直ぐなので、無知な子供には山遊びの刀に持って来いの形に見えてしまう。僕はこれこれとばかり、愛用の「肥後の守」で1メートルぐらいのを切り取って散々振り回して帰ったその夜から、手といわず顔といわず真っ赤にただれて、泣きベソをかく羽目になった。明くる日赤い顔をして学校に行くと、「ああ、やったな」と級友たちは、同情三分嘲笑七分ぐらいの慰めの言葉をかけてくれるのだった。授業中、どうしても痒くて我慢できなくなると、手を挙げて先生に許しを貰い水道のところまで行き、流水で冷やす、そうすればかなり楽になる。でまた僕は、誰もいない渡り廊下を通って教室に戻って行った。

その内に父親がどこかで聞いてきたらしく、取ってきた栗の葉を鍋で煎じて、この汁をつけてみろと言った。僕は今の不快感から逃れられるならと、冷めるのを待ちかねて何度となくガーゼを鍋に浸しては方々へ生温い液体をつけた。この療法が果たしてどれだけの効果があったのかについてはまったく覚えがない。ひと月近くたつとかぶれはようやくおさまった。
アケビを食べるヤマネ
の絵葉書です。

その後はあまりハゼには接近しないように気をつけてはいたが、秋山の味覚の一つのアケビはどうもハゼの木によく蔓を巻いていたような気がする。アケビもきっとガキどもの襲来を警戒していたのだろう。いまでも、ハゼ紅葉を見るたびに、いろんな記憶がよみがえってくるのである。