内山思考
櫨紅葉素直な毒はすぐに効く 思考
もう少し近づいて 撮りたいけれど |
ハゼ紅葉はとても美しい。スマートな葉っぱの薄い緑と朱色の配合が絶妙で、高木なんかだと見とれてしまうことがよくある。いわゆる名所と呼ばれる観光地の紅葉も素敵ではあるけれど、ハゼ紅葉にはまた違った風情が感じられるのである。しかし、ご存知の通り、ハゼの木はヤマウルシとも呼ばれ、樹液が肌につくと炎症を起こす、つまりかぶれてしまうのである。症状には個人差があり、それ程でもない人もいるのだが、少年時代の僕は幾度か痛い目に、いや痒い目にあったものだ。
ハゼの小木は真っ直ぐなので、無知な子供には山遊びの刀に持って来いの形に見えてしまう。僕はこれこれとばかり、愛用の「肥後の守」で1メートルぐらいのを切り取って散々振り回して帰ったその夜から、手といわず顔といわず真っ赤にただれて、泣きベソをかく羽目になった。明くる日赤い顔をして学校に行くと、「ああ、やったな」と級友たちは、同情三分嘲笑七分ぐらいの慰めの言葉をかけてくれるのだった。授業中、どうしても痒くて我慢できなくなると、手を挙げて先生に許しを貰い水道のところまで行き、流水で冷やす、そうすればかなり楽になる。でまた僕は、誰もいない渡り廊下を通って教室に戻って行った。
その内に父親がどこかで聞いてきたらしく、取ってきた栗の葉を鍋で煎じて、この汁をつけてみろと言った。僕は今の不快感から逃れられるならと、冷めるのを待ちかねて何度となくガーゼを鍋に浸しては方々へ生温い液体をつけた。この療法が果たしてどれだけの効果があったのかについてはまったく覚えがない。ひと月近くたつとかぶれはようやくおさまった。
アケビを食べるヤマネ の絵葉書です。 |
その後はあまりハゼには接近しないように気をつけてはいたが、秋山の味覚の一つのアケビはどうもハゼの木によく蔓を巻いていたような気がする。アケビもきっとガキどもの襲来を警戒していたのだろう。いまでも、ハゼ紅葉を見るたびに、いろんな記憶がよみがえってくるのである。