2014年5月18日日曜日

2014年5月18日の目次

■ 俳枕 江戸から東京へ(176)
       山尾かづひろ  読む

■ 尾鷲歳時記(173)

       内山 思考    読む

俳枕 江戸から東京へ(176)

山手線・田町(その7)
文:山尾かづひろ 

魚籃寺の山門










都区次(とくじ):前回は三田台地の三味線寺の大信寺でしたが、今日はどこへ案内してくれますか?

秘仏なる観音様や青嵐  小熊秀子

江戸璃(えどり):やはり大矢白星師に案内してもらった三田台地で、魚籃寺(ぎょらんじ)へ行くわよ。魚籃坂下の交差点を左折して坂を上った途中に赤い山門があるわよ。魚籃寺は浄土宗の寺でね、寛永7年(1630)魚籃観音を本尊として三田に法誉上人が開山してね、弟子の称誉上人が第4代将軍徳川家綱(1651~1680)の時代に現在の地に観音堂を建てて創建したのよ。魚籃観音は、三十三観音に数えられる観音菩薩の一つ。中国で生れた観音の一つで、同じ三十三観音のひとつである馬郎婦観音(めろうふかんのん)と同体ともされているわね。中国唐の時代、魚を扱う美女がおり、観音経・金剛経・法華経を暗誦する者を探し、めでたくこの3つの経典を暗誦する者と結婚したけれどまもなく没してしまったのよ。この女性は、法華経を広めるために現れた観音とされ、以後、馬郎婦観音(魚籃観音)として信仰されるようになったそうよ。この観音を念ずれば、羅刹・毒龍・悪鬼の害を除くことを得るとされているのよ。形象は、1面2臂で魚籃(魚を入れる籠)を持つものや、大きな魚の上に立つものなどがある。日本ではあまり単独で信仰されることはないけれど、三田の魚籃寺は珍しい例だそうよ。この寺の魚籃観音は秘仏でね、上手く写真が撮れなかったので、代わりに小田原市の東善院の魚籃大観音像の写真を出しておくわね。
都区次:夕方になりましたが、今日はどうしますか?
江戸璃:普連土学園下のイタリアン酒場の「レンテッツア」の炭火焼スペアリブでワインを飲みたくなっちゃった。
都区次:いいですね。行きましょう。

魚籃観音(小田原市)













残り香の緑なりけり青嵐   長屋璃子
坂上の白亜の校舎若葉風   山尾かづひろ

尾鷲歳時記(173)

トマタマの作り方
内山思考  

夏来たる鶏舎に強き赤玉子   思考

これがトマタマ












めったに料理を作らない僕だが、たった一つだけ妻や子に「久しぶりにあれ食べたい」とリクエストされるメニューがある。それが「トマタマ」だ。レシピは後にしてひとまず僕の少ないレパートリーを紹介して置こう。ひとつがカレーだ。根がグータラなので学生時代もあまり手の込んだ料理をせず、ご飯だけ炊いてちょっとしたおかずで済ましていたが、ある時ガールフレンドの手製カレーがとても美味しかったので作り方を教えて貰った。

秘訣は材料を全て細かくし、最後にウスターソースと砂糖で味を整えるというもの。小さい頃から母の作る薄いシャブシャブカレー(メリケン粉でとろみをつける)に馴染んでいた僕にはとても新鮮だった。次が焼きそばで、これは母の味そのまま、ソバ麺と魚肉ソーセージとキャベツを塩コショウで炒めて最後にウスターソースで混ぜ合わせたら完成だ。

僕はそれが焼きそばだと思っていたから、初めて大阪で食べた時にあまりに味が濃くて驚いたものだ。たこ焼きやお好み焼きにマヨネーズ、の取り合わせにも目を見張ったが、田舎者だと思われたくなくて、平静を装って食べたら病みつきになった。母のアッサリ焼きそばは今でもたまに作ることがある。

前置きが長くなった。トマタマに必要なものはトマトとタマゴだけ、何のひねりもないネーミングである。トマト3個にタマゴ4個ぐらいが目安。まずフライパンに油を少し多めに引いて、溶いたタマゴ(砂糖と塩を少々)をレアにスクランブルし、一度皿にあげる。

娘、姉と入院前の宴
同じフライパンに今度はゴマ油をたっぷり入れ、八等分ほどに切ったトマトを炒める。ここで砂糖をやや多め(あれ?入れすぎたかなぐらいが丁度いい)に振りかける。塩も少々。で水気が出てきた頃にさっきのタマゴをさっと混ぜ合わせて出来上がりである。以前にテレビで中国人の娘さんがこれを食べるとお母さんを思い出すと言っていた一品だ。でも正式な料理名は知らない。