2012年7月15日日曜日

私のジャズ(80)

ロシア・中東欧ジャズー中東欧編
松澤 龍一

モラヴィアの紋章












前回に引き続き、早稲田大学ロシア文学会の公開講演会のさわりです。今回はその中東欧編。

チェコはジャズが盛ん。何しろ現職のヴァーツラフ・クラウス大統領が大のジャズ好きで、自分でジャズ・コンサートを主催し、挙句の果てにその司会までしてしまう悪乗りぶりである。何とも楽しい国だ。ソ連の戦車に蹂躙されたプラハの春の暗い過去など、遠い、遠い昔の話になってしまったのか。そう言えば以前プラハを訪れた時、街のあちこちにジャズ・コンサートのポスターが貼られているのを思い出した。

一口にチェコと言っても色々ある。大きく分けて、チェコ共和国の西部はボヘミアと呼ばれ、東部はモラヴィアと呼ばれる。それぞれに独自の文化をもち、言語も違うらしい。昔はこれにスロバキアも一緒になっていてチェコスロバキアと呼ばれていた。随分と混沌とした寄せ集め国家だったに違いない。でも、美貌の体操選手、チャスラフスカを生んだのはこのチェコスロバキアである。モラヴィアは世界的に有名な音楽家、ヤナーチェフ、経済学者、シューペンタ―を輩出している。

今回紹介するエミル・ヴィクリツキーもこのモラヴィア出身のジャズ・ピアニストである。バークレイ音楽院で学んだと言う本格的なジャズ・ピアニストで、結構名前が知られているらしく、来日して公演もしている。(私はこの講演を聴くまで知らなかったが)

下記音源の演奏を聴くと素晴らしいジャズ・プレーヤーであることが分かる。素晴らしい!共演しているドラマーもベーシストも芸達者で、グループとしても一流である。コルトレーンの前衛化とマイルスのロック化でアメリカ本土では衰退したと思っていたジャズがこんなところで生きている。今までエミル・ヴィクリツキーを知らなかった不明を恥じる。



こんな楽しい演奏もしている。