2015年6月7日日曜日

尾鷲歳時記(228)

みちのくや・Ⅱ 
内山思考

一枚の津軽平野という代田  思考 


パンフ、マップいろいろ













東北三日目の朝、ホテルの11階の窓を開けると青森の街は霧に包まれていた。今日の旅程に八甲田ロープウェイがあるのでちょっと不安になるが、バイキングの朝食を済ませて車で走り出すと、次第に蒼空が現れて素晴らしいドライブ日和になった。尾鷲は朝霧などまず出ないから、そんな気象も旅ごころをくすぐる。

車内に相変わらず笑い絶えず。一時間後、僕たちは八甲田連峰の大パノラマを見渡して歓声をあげていた。なだらかな山稜、ところどころの干からびた(ような)残雪、何を見ても珍しい。植生が東紀州とは大いに異なりそれも話題の多くを占める。「連れてきて貰って良かったね」僕と恵子は顔を見合わせて笑った。それから奥入瀬渓流を間近に雑穀米カレーの昼食、十和田湖畔でリンゴのソフトクリーム、と食欲も満たしながら、次に目指したのは岩手県滝沢市だ。


木立で拾ったスカシダワラ(蛾の繭)
そこでお上人の知人、古文書研究家の藤沢昭子さんを訪ねるのがそもそも今回の旅の目的で、この夜は藤沢さんやサークルのメンバーと岩鷲山こと岩手山を借景にした「ゆこたんの森」に宿泊歓談、明ければ「小岩井農場見学」「わんこそば」に「宮沢賢治記念館」とまだまだ眼福食福は待っているのであった。

「三内丸山遺跡」
過去未来ひと捻れして輪となりぬ
時空(ときうつ)ろ中身詰まって縄文人
生れてより五感で活きて風を読む
獲物待つ石より硬き意志を持て
言霊のまだ幼くて口ごもる
男の眼黒曜石を得て光る
穿たれし翡翠の孔へ息通す
白き魔の季節は遠し栗の花
縄文の火が熟睡子(うまいご)の頬照らす
星空や干肉噛(しが)む村の長 

「弘前にて」
三重訛りみちのく訛りアップルパイ
初夏の日を廊下へ展げ色硝子
新緑の杜と林檎のパイの町
パイの店あまた五月の円周に
夏空に雪の高さを指す娘
だまし絵の街紫陽花へまた戻る
アップルパイに百態ありぬ麦の秋
窓外を園丁過ぎる夏館
名園や箱庭に似て喫茶室 

(以上、東北行百句より)