文:山尾かづひろ
浜離宮 |
江戸璃(えどり):早いわね、今日は彼岸の入りよ。
都区次(とくじ):前回は栃木県那須烏山市の簗でした。今回はどこですか?
法師蝉離宮の句座の静けさに 柳沢いわを
曼珠沙華足音うしろよりも来る 戸田喜久子
江戸璃:私はね、これらの句から今時分の浜離宮を連想してね。曼珠沙華やコスモスを見に浜離宮へ行きたくなったのよ。というのは表向きでね、少し前の猛烈な残暑で調子が狂った所に、この涼しさでしょう。体力・気力がすっかり凹んじゃってね。困っちゃったのよ。こう言うときの私の体調の直し方は、幕末の人間に成り切って、然るべき場所に立つことなのよ。そすると血が騒いできて途端に体力・気力が元に戻るのよ。徳川慶喜を知ってるわね、大政奉還の後もまだ曲折があって、鳥羽・伏見の戦いが起こってね。旧幕府軍が官軍に敗北してきたら、まだ兵力を十分に保持しているにも関わらず、自らが指揮する旧幕府軍の兵に「千兵が最後の一兵になろうとも決して退いてはならぬ」と命を下し、慶喜は戦うポーズをとりながら、こっそり大阪城を抜け出して、側近・側女を連れて旧幕府軍艦「開陽丸」で江戸に向かっちゃったのよ。その「開陽丸」を下船したのが浜離宮の「将軍お上り場」なのよ。と言うわけで浜離宮へ行くわよ。
秋桜昔を今に大手門 油井恭子
その昔浜御殿とか秋の苑 白石文男
秋天を水面に眺む伝へ橋 石坂晴夫
お伝ひ橋腰元見しと秋の鷺 忠内真須美
潮入の池に魚影秋日和 白石文男
潮入の池に入り来し秋の声 近藤悦子
コスモスの揺れ止まずして黄昏るる 甲斐太惠子
コスモスに潮の香届く浜離宮 忠内真須美
コスモスや潮の香絶えぬ浜離宮 石坂晴夫
下り船水面仄かに秋めける 甲斐太惠子
航跡の浅草へ延び天高し 高橋みどり
江戸璃:お蔭様で体力が戻ったので、開催中の浅草灯籠会へ行きたくなっちゃった。水上バスで行くから付き合ってよ。
コスモスや水上バスの来る時間 長屋璃子
ほろ酔ひの仲見世裏手鉦叩 山尾かづひろ