2014年8月10日日曜日

尾鷲歳時記(185)

名曲中の名曲 
内山思考

椰子の実や銀河に近く揺蕩(たゆた)える   思考

リハーサル後の
ツーショット













ブルースギタリスト、濱口祐自さんのコンサートに行ってきた。和歌山県の那智勝浦から出ることなく、音楽活動を続けていた濱口さんの実力は地元では知られた存在だった(らしい)が、還暦を前にメジャーデビューするきっかけは久保田真琴、細野晴臣など一流ミュージシャンの後押しによるものだそうだ。音楽評論家のピーター・バラカンも絶賛している、という新聞記事を読んで僕はその演奏を聴いてみたくなった。

場所は熊野市の行きつけのレストラン。恵子と二人で少し早く行くと、長髪にバンダナの鉢巻をした男性が、音響機器をセットした小さなスペースでリハーサルを始めるところだった。スミマセンと前を横切ろうとしたら、どうぞどうぞと席をすすめてくれる。第一印象はベリーグッド・・・・で、弾きはじめたら魂消(たまげ)たのなんの。巧いなんてもんじゃない。僕もギターをちょっと触った経験があるから余計に凄さがわかる。多分、濱口さんは自らの感性をそのまま音に替える術を身に付けているのだろう。

二時間のコンサートは驚きの連続だった。まず、曲ごとにチューニングを変えるのだ。濱口さんは照れ屋らしく、演奏を終えると勝浦弁でジョークを交えながら、次の曲のために糸巻きを緩めたり締めたりする。普通はそんなことはしない。ギター本体にも思い切ったマイナーチェンジの痕跡がある。レパートリーの広さにも驚いた。ブルースはもとより、クラシック、ジャズ、カントリーから映画音楽まで自由自在の超絶技巧。しかもアレンジが絶妙だ。

CD&パンフレット
口癖のように「次は名曲中の名曲」と言って客席を笑わせ、笑わせた後は演奏で魅了する。時には歌う。そんな間の取り方もとても新鮮に思えた。そして「これは国歌やからみんなで歌いましょう」と前置きして奏でたのは唱歌「椰子の実」。ジャンルにとらわれず「いいものはいい」とする濱口さんの感覚にも僕は大いに共感を覚えたのだった。