2015年10月4日日曜日

尾鷲歳時記(245)

林檎の里へ
内山思考

 秋の野の光集まるトンボ玉   思考

林檎狩り初めて












惠子と青木夫婦に言わせると信州へ旅行しよう、安曇野にあるいわさきちひろの美術館に行こう、と言い出したのは春先の僕らしいが、自分が何故そんな気になったのかちょっと記憶にない。でもきっとテレビを見るか本を読むかしてみずみずしいちひろの絵に触れたくなったに相違ない。自宅の駐車場から安曇野のホテルまでナビを設定すると、行程は430キロ6時間ということなので出発は朝の六時、ご夫婦を迎えに上がって、さあ新鮮でうれしい時間が動き始めた。

天気はこの日荒れ模様で翌日も回復の兆し無しとか。よりによって旅程の二日間だけ悪天候は不運なれど、惠子が希代の晴女なのでそれを頼りに、高速道を一路信州へと疾走した。小黒川のパーキングで朝食(きしめん二名うどん二名)を食べそれぞれの服薬を済ませ、またまた喋って走って着いた目的地で昼は本場の蕎麦を啜り、旅行本を持つ司令部(女性陣)の指図に従って「出張何でも観光団」はあちらこちら。

擬宝珠三つ・松本にて
結局、傘はほとんど使わずにちひろ美術館へ赴き、例のあの優しいちひろ画を充分に堪能し絵はがきをたくさん買ってホテルへ着いた。外は夜通し秋の嵐が吹いていたものの、明くる日はなんと見事な大秋晴れが僕たちを待っていて、「アマテラス惠子」はまたまた伝説を作ったのだった。



「晴女二十句」

長月の長野長袖嶺を指す
カンナの赤墓石の黒に雲垂れて
御僧の拾う紅葉や大楓
六十路とはもみづる木々や旅ごころ
外は雨額に「ぶどうを持つ少女」
人ら皆秋思にじませ美術館
三掻きほど蛙泳ぎを宿の風呂
旅連れの酒もすすむよ走り蕎麦
宿の飯松茸の香の強すぎる
新米の御威光に腹八分目
闇を揉む嵐に虫の脚力
秋蝶や信濃の空の雨後の青
結界を跨いで拾う胡桃かな
芋虫に白人少女絶叫す
赤に黄に里の花咲く旅の途次
林檎もぎたくて畑の主探す
農に生く若き手パキと林檎割る
ことさらに引力強き林檎畑
秋祭衆生の食は賑わえり
御籤引く秋のうららの晴女