2011年5月15日日曜日

私のジャズ (20)

第二の笠置シズ子出でよ!
松澤 龍一

 「笠置シヅ子 東京ブギウギ」 CD












エノケンこと榎本健一と並び笠置シズ子は偉大なジャズシンガーである。彼女の物真似でデビューした美空ひばりの影に隠れてしまったが、もっと、もっと評価されてしかるべき歌手であったと思う。ビリー・ホリデイが最も影響を受けたと思われるミルドレッド・ベイリーと同じだ。ビリー・ホリデイの初期の歌を聴くと、ミルドレッド・ベイリーと瓜二つ、その影響力の大きさがうかがい知れる。日本ではミルドレッド・ベイリーはビリー・ホリデイに比べると、人気の点でも知名度の点でもぐんと落ちる。日本のジャズファンに蔓延している黒人偏重嗜好のためか。ちなみにミルドレッド・ベイリーは白人(インディアンの血が少し混ざっていると言われるが)で、アメリカの肝っ玉母さんのような容姿のチャーミングな女性である。

「東京ブギウギ」、「ジャングル・ブギー」、「買物ブギー」、「大坂ブギウギ」、どれも素晴らしい。これらを聴くと一日が楽しくなる。天才、服部良一の作曲と笠置シズ子の天衣無縫な歌に、ステージのハチャメチャぶりが目に浮かぶ。戦後まもなくの日本人をどれだけ楽しませたのだろうか。戦後復興に大きな寄与をした一人だと思う。大震災復興期の日本に第二の笠置シズ子出でよ、である。

彼女の歌にもまして素晴らしいのは伴奏の楽団である。めちゃくちゃスイングする。乗りに乗りまくる。詳しい録音のデータがないので分からないが、どちらにしても戦後間もなくの録音で、メンバーもすべて日本人のはずである。つまりついさっきまで、日本陸軍か海軍の軍楽隊で、ブンチャカ、ブンチャカやっていた連中のはずである。それが、このスイング感、本当に感動する。彼らの心に鬱積していた表現意欲が一気に爆発したのかも知れない。

日本のジャズと言うと、ドラマーの白木秀雄が法被を着て和太鼓を叩くのを見て以来、すっかり毛嫌いをしてきたが、今、この笠置シズ子のCDを聴き直してみて、素晴らしい日本のジャズもあったんだと考えを新たにした。

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追加掲載(120104)
これを聴けば、元気モリモリ。