2011年9月4日日曜日

尾鷲歳時記 (32)

歩き方について
内山思考 

灯下親し下田逸郎調弦す 思考 


台風接近、昔なら旅人は足留め


















「歩き方を変えてみよう」と思ったのは半年ほど前のこと。湯上がりにボーッと自分の足を見ていて、日常、足の指をあまり動かしていないことに気づいたのだ。大げさに言えば、指の付け根と踵だけで60年近く歩いて来たわけで、25・5センチの足を20センチしか使っていなかった、それは勿体無いことだ。

そこで試しに足でゲンコツを作るつもりでギュウと内側に折り曲げたら、足の裏か゛つった。「アイタタタ」 それから毎日、足の指で大地をつかむ気持ちで歩くようにしていたら、中指と薬指の外側に慢性的にできていたタコが無くなってしまった。目覚めたのだ足指が。

尾鷲の町には、熊野古道目当てにやって来たハイカーや、早朝、夕方のウォーキングを日課にしている人が大勢いる。皆さんそれぞれに自分の歩き方をどの程度意識しているのだろうか。一人一人に聞いてみたいものだ。

日本古来の履き物であるワラジ、下駄、草履を見ても、足の親指と他の指を分ける仕組みになっている。これだと自然と指に力が入り、バランス感覚が養えるのではないか。 農作業などの労働が多かった時代は、前かがみになる作業が多かったせいか、腰の曲がった人をよく見かけたが、最近の日本人は姿勢がいい。その代わり筋力が衰え始めると、膝、腰に負担がかかるのである。

数年前、ナンバ歩きというのが話題になり、その火付け役ともいえる古武術家・甲野善紀(よしのり)さんに会いに行ったことがあった。甲野さんによれば、古(いにしえ)の日本人は今、我々が行進するように、イチニ、イチニと歩くのでなく、上半身をほとんど動かさないで、右手右足、左手左足を出す感覚で歩いていたという。つまり腰が捻れないのだ。


一本歯の下駄、裏は
天狗の顔みたい

甲野さんに会って以来、僕は、思いつくまま体の使い方をいろいろ試している。と言っても、公衆の面前でナンバ歩きをしているわけではない。 以前、妙長寺の青木上人から頂戴した一本歯の下駄がある。いつかこれを履いて天狗のように天狗倉山(てんぐらさん)を登ってみようか。