2013年1月13日日曜日

尾鷲歳時記(103)

今年もまた
内山思考

 大ぐさめなれど推進力はなし  思考

冬の一本道












正月気分も早々に抜けて、一年が動き始めた。さあ頑張るぞ、と拳を突き上げたいところなれど、くしゃみが止まらない、のどがイガイガする、鼻水が・・・、と不快なことこの上無い。風邪を引いてしまったようだ。去年の年明けはもっとひどかった。妻の定期検診で名古屋の病院に行くのに、前日桑名の姉の家へ泊めてもらったのだが、朝目覚めると驚くばかりの雪景色になっていて車が出せない。

仕方なくバスを利用することにしたら今度は雪の影響でなかなかバスが来ない。同じ三重県でも尾鷲とは大違いの風景だ。やっとチェーンをガチャガチャいわせながら到着したバスに乗り込むと、生暖かい車内に無言の他人がギッシリ。慣れぬ体験ばかりで、その時僕はインフルエンザの洗礼?を受けてしまったのだ。病弱な妻はピンピンしていた。普段から頑丈を売り物にしている僕としてはトホホな思い出である。でまた今年もこの体たらく。

しかし食欲は健在だ。昨日も炭焼のバイト先で、猪のスペアリブを炭火で焼いて原始人の如く貪り食ったばかりだ。食べ物と言えば今、街のいたるところに脂の抜けたサンマが簾のように干してある。東紀州の名物、サンマの丸干しである。これをサッと炙ってむしり食う旨さと言ったらない。

奥がカツオの焼き、
手前がサンマの燻製
そしてサンマでもう一つ、あの幻の珍味の話。先日妻と新宮市まで出掛けて味噌煮込みうどんを啜っている時、Nさんからケータイへ電話が掛かり「内山さん、玄関閉まってたから例のやつ自転車のカゴへ入れておいたよ」と言ったので僕は思わず「オウッ」と叫んでしまった。彼が手間暇かけて桜のチップで燻したサンマの燻製は絶品なのだ。

ああ、今年もアレが食べられる、そう考えるだけで僕の心は踊った。帰ってそれを包んである新聞紙を広げた時のあのかぐわしさと黄金色のサンマの美しさ。「すごい匂いやね」と妻は言ったが僕には堪らない芳香である。あれは誰にもやらない、一人で食べるのだ。