内山思考
うららかな陸海空や人は食い 思考
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清崎守人さんの絵手紙(平成6年) 心お元気で、とある |
食べ物には、ある程度の年齢にならないとわからない大人の味というものがある。僕にとっての野菜がそうだった。まず人参、子供の喜びそうな赤い色はしていても、よそよそしい甘さと生臭さを持っている。しかし父親の作ってくれた人参ジュースは美味しかった。大根は一見、淡白で鷹揚なように見せかけて、油断していると大根おろしになった途端に辛辣なパンチを舌に食らわす。タマネギはまずあの歯ごたえが許せない、ネギ類のシャリシャリ感そのものが苦手だった。ところが母の揚げたタマネギの天ぷらは甘くホコホコと食欲をそそり、ウスターソースがよく合った。それ以外の例えばゴボウは土臭い、青い菜っ葉はたくさん食べると鳥になってしまいそう。白菜は水臭い、とにかく、出されれば残しはしなかったけれど、思考少年からすると野菜なんて「みーんなキライ」状態だったのだ。
にもかかわらず、それらの全ての個性が今はよくわかるのだから年はとってみるものだ。もっとも食べること大好き人間の妻と一緒になったことも大きな要因だろうが。近頃は、匂いの強い春菊だけをすき焼きのタレで炒めておかずの一つにしてしまうし、白葱は五センチぐらいに切ってオーブンで焼いたアツアツを生醤油で。分葱のサラダもいける。野菜ってなんて素晴らしいんだ・・・なんて、数十年前の母に聞かせてあげたい台詞である。
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風景も味覚を増す 今日の弁当はここで |
「ボクの育った所じゃ食事は肉百パーセントだったよ」
「じゃ野菜は?」
「そんなもの食べないよ」
ニコニコと機嫌よく話す彼を見て、僕は何だか食事に対する価値観が一転したような気がしたものだ。その代わりかどうか、マテ茶はたくさん飲んだそうである。