内山思考
飛機降下春の浮力を押さえつつ 思考
春光を浴びてフライトに備える |
「ああ、このままずっと乗っていたい」
沖縄へ向かう飛行機の中で丸い小さな窓に顔を押し付けるようにして、僕はそう思い続けていた。妻の退職祝いを兼ねた五泊六日の旅、二人でずっと楽しみにして来た沖縄への夢の時間が動き始めたのだ。
どれほど楽しみにしていたかというと、午後二時の飛行機なのに神戸空港に着いたのは九時半だったぐらいである。搭乗手続きを済ませたあと、僕たちはソファーに腰掛けて、徐々に増えてゆく旅行客がどの便に乗るか予想したり、カフェで美味しいウィンナコーヒーを飲みながら雑談をしたりして時を過ごした。
それでもまだ一時間以上あるので、離発着の見えるカウンターに移動、満ち満ちる春の光をゆっくり沈んでくる、あるいは力強く舞い上がる機影をウットリと眺めていた。到着したある一機は、乗客を降ろすと同時にタンクローリーが給油を開始し、一時間もたたぬ内に新たな便として飛び立って行った。結構ハードなダイヤが組まれているのである。神戸空港は滑走路が一本なのでまず四、五機が続いて着陸し、その後今度はそれらを順番に出発させるシステムのように思えた。そしてやっと僕たちも機上の人となることができた。
淡路島を越え、四国を横切り九州宮崎を右にしながら、雲の間を滑るようにわが機は南下を続ける。二時間の時空移動の間、一応用意してあった文庫本「生き物ポケット図鑑」を開くこともなく、僕は高空の巨大な雲海と狭間に覗く地上の二次元世界に魅せられていた。
「着いたよ」と 子に連絡する妻 |
妻はというと早起きの影響がでたと見えて、冊子を広げたまま目を閉じている。つられて僕も生あくび。後ろの方では幼い子が眠いのかさっきからしきりにぐずっている様子だ。
火のついた赤子大阪まで行くか 悟朗
がふと浮かんだ。エンジン音が変わり車が急ブレーキをかけたような制御感が身体に伝わって来た。機体は薄い雲の層を抜けて那覇の街へと降下を始めた。