2013年4月28日日曜日

尾鷲歳時記(118)

磁石の針
内山思考

若草や都は道を集めたる  思考

ゆっくりのんびり春日大社へ











「風来」の四月句会は、和田悟朗さんの読売文学賞のお祝いをかねて奈良公園で吟行することになった。地理に詳しい森澤程さんが世話役を務めて下さり、昼食はホテルでコース料理を楽しむという豪華版だ。僕はこの日をとても楽しみにしていた。和田さんや同人の皆さんと奈良公園を散策すればきっと有意義な時間が過ごせるに違いない。

遠方ということもあるがこういう場合、つい気が逸って家を早く出てしまう癖があるものだから、朝の6時に尾鷲を出たら、8時半に奈良公園に着いてしまった。しかも寒い。気温は十度を切っているだろう。待ち合わせが近鉄奈良駅前で十時なので喫茶店で時間つぶしすることにした。熱いコーヒーとモーニングセットで体を温めながらぼんやりと思考を満喫・・・・。そして定刻に全員目出度く集合する事が出来たのでさあ出発だ。

一同大路を横切ってまずは春日大社行きのバスに乗った。大仏殿の人だかりを避け割に静かな杜を散策しようというのである。室内の句会ばかりでなくたまには吟行もいいものだ。やがてバスを降り三々五々歩き始めた。鹿がいれば立ち止まり、馬酔木が咲いていれば花を揺らし、カタツムリを発見すれば顔を揃えて覗き込む。皆さん一見おさなごころに任せて行動しているようだが、俳句手帖は離さず、時々一点をジッと見つめる。

春日大社では「砂ずりの藤」の棚にしばし足が止まった。句会の時間もあるので少し急いで、と森澤さん。ならばと近道のつもりで脇道に入ったら何だか妙な林の中へ出てしまった。すると和田さんが方位磁石を取り出し、鹿のフンだらけの若芝の平らへそれを置いて「ああ、あっちやな」と一言。

飛火野を抜ける一行
さっきは万歩計も見せてくれたから和田さんのポケットにはいろんな道具が入っているとみえる。まるでドラえもんの「四次元ポケット」である。歩き始めると「ふんころがしや」と和田さんが言ったので、僕たちは再びそのまわりにかがみ込んだ。