2013年9月8日日曜日

尾鷲歳時記(137)

高野山にて内山思考 

秋風や箸押し返す胡麻豆腐  思考 

杉の巨木を前に












妙長寺の青木ご夫妻と妻の四人で高野山に行って来た。僕だけは初めて訪れる聖地である。何度か来山経験のある妻によると、とにかくお墓が沢山あるところなのだそうだ。織田信長、豊臣秀吉を始めとする歴史上の偉人たちの供養塔が林立していて、それが歩いても尽きないというのである。

「ヘエ、そうなんや」 ハンドルを握りながら相槌を打ってはみるが、実際にその場に立って見ないことには、もう一つイメージが膨らまない。南方に台風がいるとかで少し怪しい空模様の下、車は熊野市で太平洋と別れてから延々と山の中を走りつづけた。それも一時間や二時間ではない。三時間以上経ってやっと「高野竜神スカイライン」に入ったくらいである。

そこからまだ走る。しかし、車内は思い出話や親父ギャグが飛び交って笑いが絶えない。そのうちにナビゲーションのお姉さんの声がしきりに「奈良県に入りました」「和歌山県に入りました」と繰り返すことに気がついた。ちょうどコースが両県の境界を北上する形になっていると見え、帰路に数え直すと、15キロほどの距離の間に奈良県コールが14回、和歌山県コールが15回もあったのには一同驚いたことだった。

やがて高野山に到着。夏期休暇も過ぎた平日だというのに参拝者が多く、外国人の姿も方々に見られ、さすがに名のある山だけのことはあると感じた。パンフレットによれば再来年(平成27年)は弘法大師が高野山を開創されてから1200年にあたるとかで、木立をなす巨大杉の幹の太さを見ればさもありなんと思わせる時空の深さである。

高野山土産と言えば僕にはコレ
僕たちはまずは奥の院に向かって歩き始めた。宗派こそ違え、青木上人はまた格別な思いに耽っているご様子だが、われわれのシンプルな質問にも丁寧に答えて下さる。お上人の「金剛峯寺の方へまいりましょうか」との声に「はい」と答えながら、実は僕は胡麻豆腐を早く食べたいな、と考えていた。