2013年11月3日日曜日

尾鷲歳時記(145)

観劇と骨挫傷 
内山思考

人情の時計を秋に合わすなり  思考

藤山直美さんの舞台チケット








藤山直美さんの舞台を観に行ってきた。場所は名古屋の中日劇場で、同行は妻、恵子と知人の青木夫妻である。恵子は二週間ほど前に階段を踏み外し、右足の中指を挫いてしまっているので歩きにくそうだ。医者は骨折はしてないと思うが、痛みが続くようならもう一度来なさいと言ったそうだ。「明日行ってくるわ」と妻。さて開演一時間前に劇場に着くとロビーはもうたいへんな賑わいである。その多くが六十代七十代のおばちゃん。皆さん目を輝かせ表情豊かに語り合っている。その圧倒的な活力に思考と青木上人はタジタジとするのであった。

今回、観劇初体験の僕を誘ってくださったのは上人の奥さんである。何でも藤山直美さんの大ファンで、彼女の舞台は何度か観ているという。是非とも連れて行って下さいと要望したので、すぐネット予約をしてくれたが、「ごめんなさい、もう二階の端しか空いてなくて」とのこと。でも当代きっての喜劇役者の芸を堪能できるのだから、たとえ隅っこでも文句のあろうはずがなかった。

人だかりを縫うようにして席に着くと、早くもお弁当を食べている人が沢山いるのにまず驚く。11時開演で途中に30分の休憩を挟むのだが、それよりは今の間に食べて置こうということのよう。そしていよいよ始まったのは「ええから加減」というお芝居で、直美さんと高畑淳子さんがベテラン漫才コンビを演じる。廻り舞台のセットを大きくいじらず、照明を上手く使って幾つかの空間と時間を表現する方法は、とても興味深いものだった。
さっそく
手摺りをつけて貰った
生の演劇は初めてのこととて、最初は少し緊張感があったが、いつの間にかテンポのいい台詞回しと泣き笑いの人情話に引き込まれ、千数百人の笑いの渦に巻かれた僕は、カーテンコールの拍手の中で、期待以上の収穫を得たことを実感していた。さて翌日病院に行った妻から、やはり骨にひびが入っていたと連絡。それでよく歩いていたものだと、改めてわが嫁の辛抱強さに脱帽した次第。