2011年1月16日日曜日

I LOVE 俳句 Ⅰ-(2)

水口 圭子


 春かなしカザルスチェロの鳥の歌  河野 胆石


「鳥の歌」は、スペインカタロニア地方の古い民謡の編曲で、重厚かつ哀愁を帯びた旋律が聴く人の心を惹きつける。

カザルス(パブロ・カザルス、1876-1973)は、音楽史上最大のチェロ奏者で、バッハの無伴奏チェロ組曲を世に広めたことでもよく知られる。そのカザルスは、カタロニア出身だが、スペイン内戦に勝利した時から第二次世界大戦終了後も存続し続けた、フランコ独裁政権に反対し、祖国を離れた後、死ぬまで二度と故郷に足を踏み入れることがなかった。人間の自由と尊厳をモラルとし、音楽に対する情熱と故郷への強い愛情を持ちながらも、政情のために故郷に帰ることの叶わなかった彼にとって、「鳥の歌」は特別な一曲であり、晩年の演奏会には必ずプログラムに加えたと言われる。

今、私の手元にあるCDは、1961年、第34代アメリカ大統領・ケネディの招聘による、ホワイトハウスでのコンサートを現場収録したもの。当時アメリカはキューバ危機に直面、平和的解決を願っていたケネディに共鳴して演奏会を承諾、その最後に「鳥の歌」を弾いている。カザルスの故郷への深い愛情と平和への強い願いが伝わってくる。

この句の作者もカザルスに共感。一般的には、季節の始まりとして希望に満ち溢れた春であるのに、いつも世界の何処かで戦争が起きていることを憂いている。その気持ちが、「春かなし」に集約されている。