2011年4月17日日曜日

尾鷲歳時記 (13)

俳優・榎木兵衛(ひょうえ)さん 
内山 思考

 遠足をそのまま続け人生や  思考 

榎木さんにサインして貰っているところ


 







日活映画と言えば、やはり大スター石原裕次郎の名が浮かぶ。彼がいまだに我々の記憶に強く残っている大きな理由は、映像もさることながら、時代を象徴するボーカリストとしての存在感にあると思う。 「赤いハンカチ」「夕陽の丘」「夜霧よ今夜も有難う」など、我々はカラオケでイントロが流れれば、甘い感傷と共に少なくとも一番の歌詞は見なくても歌える。

さて、本題は別で、当時の日活映画の多くに出演した榎木兵衛さんは尾鷲市九鬼町の出身である。名に覚えが無くても、 「何だこの野郎!」 とか言って出てきたと思ったらアッという間に裕ちゃんにやっつけられ、画面から消えてしまう長い顔に金壺眼(かなつぼまなこ)と言えば思い出して頂けるかも知れない。 いつだったかテレビの「笑っていいとも」で、三谷幸喜さんが榎木さんを紹介した時、ファンだった僕は大いに喜んだものだ。三谷さんは自らの監督作品「みんなのいえ」「THE有頂天ホテル」「ザ・マジックアワー」にそれぞれユニークな役で榎木さんを登場させてくれている。  そして、とうとう平成十八年の五月、尾鷲文化会館で「THE有頂天…」を上映し、合わせて榎木さんをゲストとして招く機会に恵まれた。

三谷幸喜さんから届いた花飾り
 幸運にも司会を仰せつけられ、緊張しながら事前の打ち合わせに臨んだが、お会いした榎木さんは、熊野訛りの抜けない気さくな小父さんだった。 「裕次郎さんの印象は?」と伺うと、それまでの照れくさそうな表情が一変して、驚くほどの饒舌になり、あんないい人はいなかった、と繰り返した。よほど仲が良かったのだろう。 最初、サンダル履きでスタジオに現れた時はなんて生意気な野郎だ、と思ったらしいが、掃除のおばちゃんや大道具の若者にまで声を掛ける人柄は忽ち辺りの空気を明るくしたという。 二人でビールを飲んだ挙げ句に立ち回りで大失敗した話、ヒット曲の裏話、裕ちゃんを語る時の榎木さんの嬉しそうな顔が今も忘れられない。