2011年4月17日日曜日

I LOVE 俳句 Ⅰ-(13)

水口 圭子


喪ごころに言葉こもらふ藤の下  文挟夫佐惠


例年ならもう藤の咲き始める季節だが、今年は春の訪れが遅く、他の花同様もう少し先になるらしい。足利市には、藤棚の広さと房の長さで世界一と言われる「足利フラワーパーク」が有って、開花期ともなると、関東一円から沢山の観光客が集まる。藤の樹齢は140年、房の長さは1.5メートルに達するのもあり、一本の枝の広がりは一番大きなもので500畳と言われる。その下に立つと正に圧倒される感、言葉を失くす。藤が大きくなり過ぎて、以前の敷地では狭くなり、1996年4本が現在地に移された。移植を担当したのが、樹木医第一号で現園長の塚本こなみで、日本で初めての移植成功例となった。

絵描きであった私の夫が、この藤を描きたいと言うので一緒に見に出掛けることになった。通常車でわずか15分の所なのだが、見頃時は兎に角大渋滞になる上、大勢の人込みで臨時駐車場の外れの方から延々と歩かなければならない。藤の時季は7時開園でその前に行けば入口の直ぐ傍に駐車できると聞いて、朝食前に行ってみた。開園直後に入った人達は、殆どが一眼レフと言われる立派なカメラを携えており、すぐさまあちこちで三脚を立て始めた。40分程見て回り、恥ずかしい位小さなカメラで写真を撮り終えて車に戻ろうとした時、夫の携帯電話に闘病中だった友人の訃報が入った。58歳、彫刻家兼陶芸家でこれからを期待される、若すぎる死であった。6年前のことである。

夫は、所属するグループの定期作品展に、2年続けて藤の絵の大作を描き、仲間から「こんな大きな絵を描いていたら死ぬぞ」と言われた言い、丁度2年半前本当に死んでしまった。67歳で、「これからもっと良い絵が描けるような気がする」という言葉を残して。その後フラワーパークには行っていないが、藤の花を見ると夫の残した絵と友人のあの訃報を受けた時のことが浮かんで来る。