2011年4月24日日曜日

尾鷲歳時記 (14)

海の幸・山の幸
内山思考 


  水温む踵(きびす)を返しても未来  思考 


小鯖の炙り










桜の季節が近づくと、知人に電話する。「また頼むよ」「ああ、わかった。で、五十本?」「そう、五十本」これで通じる。 彼の出身地、尾鷲市梶賀(かじか)町の特産、小鯖の炙りを食べずして花どきを過ごすわけにはいかない。 こさばのあぶり、とは大敷網にかかった鯖の子を二十匹ほど竹串に刺し、ウバメガシを焼いた煙でいぶした燻製である。小アジを使うこともあるそうだが、香り、旨味、歯ごたえのどれをとっても小鯖が一級品で、時期を逃すと成長してしまって骨まで食べられない。

小鯖は大敷網のいわばオマケなので、本来なら餌や飼料にされるそうだが、梶賀の人たちはまとめて燻製にすることで自家消費して来たようだ。素敵な工夫である。 数日後、届いた炙りはまだあたたかい。 これ一串でドンブリ飯二杯はいける。 ああ幸せなことだ。 小鯖といえば、先日、南蛮漬にしたものを食べたが、それもうまかった。 場所は、市内向井(むかい)にある「夢古道おわせ・スカイフードレストラン」で、ここは、地元で採れた食材を活かした「お母ちゃんのランチバイキング」が大人気。 尾鷲湾と天狗倉山(てんぐらさん)が一望できる明るい店内はいつも賑やかで、何といっても賄いのお母ちゃんたちのテキパキとした働きぶりと笑顔がいい。

食欲は爆発だ、南蛮漬に舌鼓










僕が行った日の献立は「鯛の身のカレー」「地魚(小鯖)の南蛮漬」「春の山菜の天ぷら」「わらびの塩こんぶ和え」「おふくろ煮(かぼちゃ・人参)」などなど。このヘルシーさが好評で、客は地元ばかりでなく他県からのリピーターも多いと聞く。 帰宅すると、従兄が虎杖を届けてくれていた。この地方でイタドリは春の山菜の代表格なのだ。さっと湯通しして皮をむき、タケノコと一緒に煮たりする。そう言えば、タケノコもそろそろ掘れる頃だ。