松澤 龍一
「テアトロ・シャンゼリゼ-の ジャズ・メッセンジャーズ」 (Victor RA5023) |
本当に神童と思うプレーヤーがいる。パーカーでもなければマイルスでもない。トランペッタ―のリー・モーガンである。坊主頭の田舎の中学生である私の傍らを、颯爽と通り抜けたモスグリーンのピチッチとしたスーツの小柄な黒人、それがリー・モーガンだった。ジャズ・メッセンジャーズの初来日のコンサートで入り待ちをしていた大手町の産経ホールでのことである。
彼のデビューは19歳、その翌年には早くもリーダーアルバムを出している。日本だったらブラスバンドを卒業し、大学のジャズ研あたりで、ケニー・ドーハムあたりをコピーし始めている頃、テクニックと言い音楽性と言いこんなにも卓抜している若者がいたとは、まさに驚異である。「テアトロ・シャンゼリゼ-のジャズ・メッセンジャーズ」と題されたレコード、どうも日本で作られたものらしい。録音もステレオではなくモノラル。非売品、見本盤とあるからには、本当に発売されたかどうかも怪しい。B面の冒頭の「レイス・アイディア」で聴けるリー・モーガンのソロは絶品だ。大学のジャズ研の夏合宿でこれを聴かせたら、全員が固まってしまった。彼のジャズ・プレヤーとしての頂点はこの辺りにあった気がする。その後、「サイド・ワインダー」と言うジャズ・ロックの大ヒットを出し、商業的にも大成功をおさめる。
出演していたニューヨークのジャズ・クラブの楽屋で、愛人に射殺される。どうも浮気が原因らしし。享年34歳、神童は長生きをしてはいけないようだ。
(産経ホールの入口で会ったのはリー・モーガンとずっと信じていた。この原稿を書くにあたって、良く調べてみたら、ジャズ・メセンジャーズの初来日のトランペッタ―はリー・モーガンではなくフレディ・ハバードのようである。するとあれは幻か)
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追加掲載(120104)
リー・モーガン生涯最高のソロ。
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