2011年5月29日日曜日

私のジャズ (22)

アーチー・シェップが唄う 
松澤 龍一

 LEFT ALONE REVISITED
 (enja TKCB-72371)












60年代、いわゆる前衛ジャズが勃興した頃、新しいプレーヤーが登場した。テナーではアルバート・アイラー、ファラオ・サンダース、アーチー・シェップなどなどだが、ちょっと胡散臭いアルバート・アイラー、音だけ馬鹿でかいファラオ・サンダースに比べ、アーチー・シェップは本物だと思った。彼にはブルースがある。先々生き残るに違いないと思っていた。アルバート・アイラーはイースト・リバーで謎の溺死を遂げ、ファラオ・サンダースはどうしているのかなと思い調べたら、インターネットに彼のホームページを見つけた。元気にやっているらしい...とそんな程度である。

2002年にパリで録音されたこのCD、アーチー・シェップがピアノのマル・ウォルドロンとデュエットで吹き込んだもの。タイトルの Left Alone はマル・ウォルドロン(ビリー・ホリデイの最後の伴奏者)がビリー・ホリデイを偲び、大分昔に出したレコードのタイトルで、共演したアルトのジャッキー・マックリーンの甘ったるいソロで知られる。(これがジャズ史上に残るもっとも甘い、緩いのでは無く、良い意味で、ソロだと未だに思っているが) 

このCDでも、第一曲目で Left Alone をやっている。これ以外の曲もビリー・ホリデイの持ち歌が多い。演奏はと言うと、気の抜けたコーラである。二人とも好々爺になってしまいスリルが一向に感じられない。あの尖がっていたアーチー・シェップ、エリック・ドルフィーやブッカー・リトルと共演した頃のマルはどこに行ってしまったのだろう。ビリー・ホリデイで又一稼ぎの魂胆も見え見えで、これもいやらしい。その魂胆にまんまと乗せられ、CDを買ってしまった自分も情けない。

中の一曲で、アーチー・シェップがブルースを唄っている。これは良い。枯れたアーチー・シェップはテナーを吹くよりブルースを唄うべきだ。マル・ウォルドロンの伴奏だけでアーチー・シェップがブルースを唄うCDが出たら、これは買いである。

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追加掲載(120104)
 レフト・アロンはやっぱり、ジャッキー・マクリーン。