2012年5月6日日曜日

尾鷲歳時記(67)

初夏の天地
内山思考

太陽の不思議を食べて葉桜に  思考


山は生命力に満ちている












キラキラと輝きながらゴールデンウイークが過ぎて行った。 尾鷲は週間の真ん中の5月1日、2日の平日だけが例の大雨で、メインの国道42号線が不通になった。よくあること、とまでは言わないが、一時間百ミリはさして珍しく無く、年間降水量で毎年、あの屋久島とトップ争いを繰り返している土地柄だから今回も「よー降るなあ」で済んでしまったのは幸いである。この雨がたっぷり行き渡ったらしく野山の新緑が一度に目に染みるようになった。

昨日、炭焼きのバイトで山の中へ備長炭の材料のバベ(ウバメガシ)を伐りに行って来た。メンバーは親方とFさんと僕。この木はあまり平坦地に生えてないので急斜面を登って行かねばならない。チェーンソーで切り倒して、枝を払い寸法にしたものを「ジグザグ」という野猿で道まで送ってトラックに積み込むわけだ。危険なので三方に別れてそれぞれに伐採をすることしばし。三機のチェーンソーがタイミングよく止むと「何時?」と親方の大きな声が降って来た。ケータイを見て 「10時でーす」と返すと「昼にしようかあ」…。

不思議なもので山仕事をすると異常に腹が減るのである。で結局この日も早弁となり後はしばし休憩。突如、轟々と飛行音が響き始めたので真っ青な空を仰ぐと、旅客機がゆっくり西へ飛んで行くのが見えた。親方も僕も寝っ転がったまま機影を目で追いながら「どこへ行くんやろ?」「沖縄かな」などと話していると、Fさんが「関空(かんく)と違いますか?」と言った。普段、物静かな彼の言葉だけに妙に説得力があり、ああなるほどあのコースならそうかも知れないと納得する。
金剛寺の鯉のぼり

目線を戻すと、左腕を蟻が疾走し、右腕では小さな毛虫が尺を取っている。こういう風に天地を身近に感じられるのが肉体労働の楽しさだと言えよう。「この頃、あまり鯉のぼり見ませんね」帰りの車の中でFさんが言った。そう言えばそうかな、走っているのは海沿いの集落でどこも過疎だから余計にそんな気がするのだろうか…。ふと、家の近くにある
金剛寺さんの鯉のぼりが、僕の脳裏で大きく身を翻(ひるがえ)した。