2012年8月12日日曜日

第12回現代俳句大賞受賞の言葉

受賞の言葉 芳賀 徹

平成24年3月24日
授賞式にて










「現代俳句大賞」を下さるとのお電話を頂いた朝、私はほんとうにわが耳を
疑いました。曙町(旧町名)の住人として夜明けまで起きて仕事をしていることの多い自分は、やはり寝ぼけていたのではないか、とさえ思いました。

でも、なんだか嬉しい。無理にベッドから起きあがってみて、はじめていまの電話はほんとうだったとさとりました。

 
まことに有難うございます。戦時中の東京の小学校で、俳人でもあった担任の先生に国語の時間に五七五の作句を習って面白がったことはありました。後年、大学院比較文学比較文化の研究室旅行で夕食後など浴衣姿で教師も学生も畳に寝ころがっては、私が音頭取りで互いに罵倒しあいながらでたらめ連句を楽しんだこともよくありました。でも、まともな作句経験は私にはありません。その私が受賞ということに驚きつつも、大いに光栄に存じます。

俳句を読み、味わい、論じることはずっと好きでした。ことに「おくのほそ道」や蕪村、中村草田男や橋本多佳子は、短歌の斎藤茂吉と同じほどに好きで、彼らの作に生きる勇気とよろこびを与えられつつ、彼らについて書物やエッセイを書くこともしました。フランス語教師また比較文学者として、詩人大使ポール・クローデルの日本文化論や俳句的短唱集『百扇帖』を大いによろこび、現代詩人イヴ・ボヌフォワやフィリップ・ジャコッテの俳句論や短詩にも目を洗われる思いをしてきました。

そんな折々に書き綴ってきた文章を、どこかでちゃんと眼にとめて下さる方々が、現代俳句協会にはいらっしたことに、あらためて厚く御礼申上げます。そして現代の俳句詩がこの二十一世紀にいよいよ世界普遍の詩となってゆくことをこそ、願っております。
 



■略 歴
・昭和6年5月9日山形市生まれ(80歳)。
・昭和28年東京大学教養学科フランス分科卒業、
同大学院比較文学比較文化専攻入学。昭和30―32年パリ大学留学。文学博士。
・昭和38年東京大学教養学部専任講師、昭和40年助教授、昭和50年教授。
・平成4年定年退官。その後、国際日本文化研究センター教授、大正大学
教、京都造形芸術大学学長等を歴任。
・平成10年岡崎市美術博物館館長(平成23年6月まで)。
・平成22年静岡県立美術館館長(現在に至る)。

◎主な著書
『明治維新と日本人』『平賀源内』『與謝蕪村の小さな世界』『絵画の領分
』『文化の往還』『詩の国詩人の国』『詩歌の森へ 日本詩へのいざない』『ひびきあう詩心―俳句とフランスの詩人たち』『藝術の国日本 画文交響』など多数。
◎主な受賞歴
・昭和56年『平賀源内』でサントリー学芸賞。
・昭和59年『絵画の領分』で大佛次郎賞受賞。
・平成9年紫綬褒章受章
・平成12年京都新聞文化学術賞(比較文学)受賞
・平成18年瑞宝中綬章受章
・平成23年『藝術の国日本』で蓮如賞受賞