内山思考
ものの怪や台風の眼の瞬かず 思考
雲竜図の絵ハガキ、誰に出そうか |
「竜が見たい」と妻が言い出した。 別に気が触れたわけでなく、名古屋ボストン美術館で開催中の「日本美術の至宝」展を鑑賞しに行こう、と言うのである。そこに江戸中期の日本画家、曾我蕭白(しょうはく)の最高傑作と言われる「雲竜図」が展示されているのだそうだ。「ああ、あれか」と思った。
上目使いで少し困ったような顔をした竜である。 かなり有名な作品だ。それ以外にも「吉備大臣入唐絵巻」や「平治物語絵巻」などめったに見られない逸品が揃っているらしい。吉備大臣とは奈良時代の偉人「吉備眞備(きびのまきび)」のこと 「晩緑の道はわびさび吉備眞備・悟朗」の句を微笑と共に思い出す。
さてその日、実は妻の定期診察のついでなので、それを終えてから美術館に向かった。尾鷲ー名古屋間は高速道を使っても三時間近い小旅行、そうそう気軽に芸術鑑賞と言うわけにも行かないのである。目的地は病院から10分ほど走ったところで、会場に入ると、さすがに「雲竜図」の前は人が沢山いた。
そこには長いソファーが置かれてあって、素晴らしい大作を存分に眺めることが出来る。観る側の照明は落としてあり、ライトアップされた巨大な竜が身をくねらせてこちらを睥睨する様は圧巻だ。宝暦13(1763)年、つまり250年前の蕭白の筆使い、息遣いがそのまま残っていて、まったく見事と言うほかはなく、まさに「至宝」の名に恥じぬ代物であった。
竜と虎 |