松澤 龍一
THE HARD BOP (BLUE NOTE TOCJ-6035) |
ハードバップ、1950年代にかけて流行ったモダンジャズの総称だが、どうも日本製の英語らしい。パーカーを中心とした若手のジャズメンのジャムセッションに端を発っしたビバップが下火になった頃、現れたのがいわゆるハードバップと呼ばれるジャズで、ビバップが陥った余りにも器樂的で、急速パッセ―ジを売りにしたテクニック重視主義傾向に歯止めをかけるかのように、東海岸の黒人を中心に広まったのがこの種の音楽で、ブルーノートとかプレスティッジのようなジャズ専門のレコード会社が盛んに録音した。
レコーディング技術の進化も忘れてはならない。ビバップ時代はSPレコードがほとんどで、3、4分のレコード録音が限度であった。従って録音された音盤もエッセンスをギュッと詰めたような、悪く言えばゆとりのないものが多かった。事実、残っているパーカーの録音でも、ほとんどが数分のソロで、長時間のソロを取ったものにはめったにお目にかかれない。このためパーカーは長いソロは苦手だとの噂があった。これに対し、ハードバップの時代になるとLPレコードが開発され、数十分にわたる録音が可能になった。演奏される曲もスタンダードの歌ものとか、歌ものでは無いにせよ、メロディアスなものが多くなった。この時代の代表的プレーヤーは、なんと言っても、テナーのソニー・ローリンズだ。彼のソロを聴くと誠に伸びやかで朗々と歌っている。
そんな感じがハードバップだが、どうもハードバップと言う言葉には引っかかる。ビーバップをより洗練されたもの、より親しみやすくしたものがハードバップとすれば、やはりこの言葉は適切では無いような気がする。和製英語たる所以かも知れない。
堂々とハードバップと銘打ったオムニバスのCDがブルーノートより発売されたことがある。ブルーノートと言えば当時の東海岸のジャズを一手に引き受けていた老舗中の老舗で、多くの録音の中から、ピックアップして一枚のCDにしている。ソニー・ローリンズを始めとして、クリフ・ジョーダン、ハンク・モーブレイ、ジョン・コルトレーン...とハードバップ時代に活躍したスタープレーヤーを網羅している。
その中から、ル―・ドナルドソンの「ブルースウォ-ク」を聴いてみよう。ル―・ドナルドソンの何とも平易なアルトサックスのソロ、ちょっと習えば誰にでも吹けそうである。