松澤 龍一
he real Lee Konitz (ATLANTIC 1879) |
ビーバップとハードバップの間にクールジャズと呼ばれたジャズが存在していた。中心となったプレーヤーはリー・コニッツやレ二―・トリスターノのような白人であった。黒人が中心であったビーバップ運動に一矢を報おうと、ビーバップ以前のレスター・ヤングの音色とかフレージングを基に新しい味付けのジャズを目指したものだと思う。
確かに、リー・コニッツの音色はパーカーとは違うし、その長いメロディーラインもレスター・ヤングを思わせる。レ二―・トリスターノに至ってはバド・パウエルとは明かに一線を画している。彼のピアノを聴いていると、その後に続いたセシル・テーラー、さらにキース・ジャレットを予感させるものがある。
この後、クールジャズの範疇には「テイクファイブ」で有名なポール・デズモンドなどが出た。ボサノバでひと儲けをしたスタン・ゲッツをクールと呼ぶこともあるが、違うと思う。スタン・ゲッツの本質はモダンジャズ本流の熱い熱いソロで、ソニー・ローリンズと並び称されるヴァーチュオーゾ精神にある。
クールジャズは一部の好事家にはもてはやされたが、決してジャズの大きな潮流にはならなかった。特に、日本では人気が薄い。日本ではハードバップ、ファンキー、ニュージャズの黒人が中心となったジャズの人気の方が圧倒的に高い。何かクールジャズの穏やかで耳に快いサウンドにムードミュージックに堕してしまう危険性を感じていたのかも知れない。
リー・コニッツとレ二―・トリスターノが共演したアルバムから二曲、いずれもリー・コニッツの作曲である。今、改めて聴いても何か物足らなさを感じる。