内山思考
穴を掘る男を秋の王となす 思考
卓上の秋の幸 |
炭焼が休みの日は原稿書きと夕方の新聞配達以外は「おさんどん」ならぬ「おっさんどん」である。朝、家族みんな出掛けてしまうと、洗濯やら何やら済ませて熱いコーヒーを入れ、机の前へ座る。それからCDの棚に目を遣る。今日はエーと…マイルス・デイヴィスにしよう(対抗馬はイヴ・モンタンとモーツァルトだった)。まず軽快に新聞のコラムを一つ書いて、買って置いた本を手に取る。
福岡伸一さんの近刊「ルリボシカミキリの青(文春文庫)」である。この人の著書にはハズレが無い。物書きには、難しいことをやさしく書く人と、わざわざ難しく書く人がいるような気がする。こちらの素養と興味の持ちようもあるだろうけれど、福岡さんの人柄が文面に現れているようで、一冊読むたびに楽しい講義を受けたような気がする。
しかし、もしも読書のルールがあるとしたら、僕は多分違反者だ。何せ早読みなのである。大抵は二時間ほどで読了する。高校時代、中里介山の「大菩薩峠」17巻を夜だけで約10日で読んだ。その中には徹夜も含まれる。それほど面白かったのだ。あの馬力が懐かしい。その後も読み飛ばす癖は治らない。でも、気に入れば座右に置いて何度でも目を通し、そのたびに新しい発見がある。そこが醍醐味と言えよう。
芋めし弁当、これにおかずがつく 右は息子用 |
二十分ほどで出来たホカホカを喉に詰めながらお茶で流し込めば古人(いにしえびと)になった気分である。あとは梨をかじり柿を噛み青ミカンを啜り、していると、「ただいま」の声。妻が帰って来たようだ。 「お父さん、弁当買って来たけど食べる?」「うん」思わず頷く僕であった。