2014年9月21日日曜日

俳枕 江戸から東京へ(194)

谷中(その3)
文:山尾かづひろ 


西光寺本堂









都区次(とくじ): 前回は谷中の瑞輪寺でしたが、今回はどこですか?

汗の身を韋駄天像につつしみぬ 冠城喜代子

江戸璃(えどり): 今回も大矢白星師が8月のお盆休みに谷中を歩いた分のトレースの続きなのよ。というわけで新義真言宗の西光寺へ行くわよ。西光寺は、佐竹右京太夫義宣公(法名浄光院殿傑堂天英大居士)が開基、宥義法印(俗姓佐竹大膳太夫義篤公二男)が開山となり、神田北寺町に慶長8年(1603)創建、慶安元年(1648)当地へ移転したと言われているわね。この寺の韋駄天像は、文禄(ぶんろく)・慶長(けいちょう)の役(えき)の際に水軍(すいぐん)を指揮した藤堂高虎(とうどう・たかとら)(1556~1630)が朝鮮より請来(しょうらい)し安置したものだそうよ。
都区次:韋駄天のことを教えて下さい。
江戸璃:韋駄天は、インドのバラモン教シバ神(しん)の子といわれているわね。 はじめは仏教を妨害する邪神(じゃしん)だったけれど、釈迦(しゃか)に帰依(きえ)してからは仏法の守護神となり、増長天 (ぞうじょうてん)の八大将軍の一つとされ、四天王(してんのう)三十二将軍神では筆頭(ひっとう)に置かれているそうよ。釈迦が涅槃(ねはん)の後、足の速い捷疾鬼(しょうしつき)が仏舎利(ぶっしゃり)から仏牙(ぶつが)(歯)を奪って逃げ去った時、これを追って取り戻したという説話から、より速い神として知られているのよ。このことからカール・ルイスのような足の速い人を「韋駄天」と呼ぶようにもなったわけ。 とくに伽藍(がらん)を守る神とされ、寺院(じいん)の厨房(ちゅうぼう)などにその像がまつられているのよ。修行僧が悪魔に悩まされるときは、走り来(きた)って救ってくれるのよ。足腰の病を平癒してくれる神として、また小児の病魔を除く神として信仰されているわね。

韋駄天像













韋駄天に追ひつかれたる鰯雲  長屋璃子
韋駄天像海渡り来しと鰯雲    山尾かづひろ