内山思考
一歳が二十歳となれり冬景色 思考
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商店街で号外を貰った |
自分が沖縄に居ることを忘れる瞬間がある。夜中に目覚めたり、ひとしきり本を読んだり、テレビを見終わったりした時に多い。フッと我に返って「あれ、ここは?」と思うのである。恵子も同じことを言った。彼女は部屋にいる時間が長いので余計にそうだろう。那覇住まいもひと月になったから、街を歩いていて横道にそれてもだいたいの東西南北はわかるし、他郷に暮らしている感覚が無くなりつつある証拠だろう。
ウチナーグチ(沖縄ことば)のイントネーションは聞き慣れた尾鷲弁の如く、夜通し町並みを流して回る北風の、あまり寒くない虎落笛すら、季は違うが「岩にしみ入る蝉の声」ぐらいになってきたのである。それと大きいのは知人友人の存在だ。地元のヒロコさんタカシさんはこまめに連絡をくれる、それに尾鷲の青木上人夫妻、岩手の藤沢さんからはほとんど毎日、便りやメールが届く。
あまりにタイムラグが無さ過ぎて、間に海があることすら忘れてしまう。ただ一つ、全国の天気予報で大陸南部と共に日本列島が映し出された時だけ、沖縄と三重の、そして岩手までの空間の大きさにあらためて驚くのだ。こんなに離れているのか、と。そして、はるばる自分のところに自分の為に、意思と意味を送ってくれる人がいる、という幸いを実感する。
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岩手から 『豆腐の病気』絵巻が |