2015年7月19日日曜日

尾鷲歳時記(234)

旅の七月 
内山思考

夏座敷世界遺産の風通る  思考

青木夫妻、石水院にて








青木夫妻と一泊で京阪を旅した。まず初日は天王寺あべのハルカスにて桂文我さんの高座を楽しんだ。共演は桂鯛蔵、桂阿か枝のお二人で客席は例によっての大笑い、終演後に喫茶室で少し話して文我さんは次の高座があるのでお別れ、僕たちはハルカス内で夕食を済ませて予約のホテルへ向かった。

それにしても三重の片田舎で海抜0メートル近い生活をする身に対し、ハルカスは異次元の高さを持っている。「高い」と言うよりまさに「他界」で、見上げるたびに首が痛くなる。でもそれが日常風景の人は、必要以上に視線を上げることをしないだろう、多分。翌日は一路車を京都へ走らせた。目的地は右京区の梅ヶ畑である。道がやや細くなり次第に山の中へ入って行く感覚、小さな曲がりがたくさん現れて「昔はヘアピンカーブを何といったんでしょうね(思考)?」「さあ・・・(青木上人)」などとピント外れの雑談を交わしながら到着したのが、栂尾山(とがのおさん)高山寺である。

高山寺パンフレット
この日は月曜で観光客もまばら、参道の石段を見て早くも溜め息混じりの恵子の尻を押しながらえっさらおっさら登り始めると、お上人は足取りも軽く視界から消えた。仏足石を見に行ったと奥さん。日本最古の茶畑を眺めた後は開祖明恵上人ゆかりの石水院で抹茶を頂いてしばしの無我無欲の境にたゆたう。明恵上人は青木夫妻と同じ紀州生まれだとか。同じような訛りもあったろうなと絶景の縁側にくつろぐ二人を眺めながら心は千年を行き来した。庭の池に張り出した木の枝に、森青蛙の卵の泡が白くくっついている。鳥獣戯画で名高い寺だ。カエルの遊び相手のウサギは何処にいるのだろう。

高山寺十句

栂尾(とがのお)や大緑蔭に寺ひとつ
仏足石まで一息に汗の僧
上人の紀州訛りや縁涼み
山梔子を香る香ると寺の客
千年の柱を囲む夏木立
菓子涼し薄茶に溶ける「栂の月」
狗子の眼は小さきギヤマン風薫る
堂高き夏 足弱の遠拝み
泳いでは古寺の赤腹すぐ休む
永劫に遊ぶ蛙と兎かな