内山思考
部屋に来て唄うイヴ・モンタンも秋 思考
![]() |
俳句史研究・第22号 |
立秋は八月でもやっぱり秋は九月からだよなあ、と今年も九月に入って実感している。その証拠に朝の日差しがどことなく濃い、トンボも飛んでいるし、一緒にタネも飛んで来たのか鶏頭が庭先のコンクリートの隅に小さな鶏冠を立てている。
小さなラジカセから漂うシャンソンがこの季節に似合うと思うのは、スタンダードの「枯葉」の影響だろうが、俳句の季語では枯葉は冬、こだわるつもりは無いけれど何だかややこしい。梨や葡萄、いわゆる秋果が朝のテーブルに頻繁に乗るようにもなった。林檎と柿の便りもその内に、などと考え、ああ食べることはなんて素晴らしいんだとうっとりしていたら「内山さーん宅配便です」の声がする。
小さな包みの中は柿衞文庫から届いた「俳句史研究第22号」だった。十冊あるのは、昨年十月二十五日に僕が話した「北山河・人と作品」の講義録が掲載されているから。ふと和田悟朗さんを思った。去年の夏だったか「先生、僕ね、柿衞文庫で北山河の話をするんです」と言うと和田さんは「ああそう、思考さんの話は面白いからな」と笑ってから「でもボク行けるかなあ?」と首をかしげた。
健脚だった和田さんもその頃は足腰がずいぶん弱っていたのである。もし聞きに来ていただけるなら送り迎えさせて貰います、そうだね、の会話の翌月「ちょっと無理やね」と微笑まれたので、「大丈夫、先生、記録が冊子になりますからそれ読んで下さい」「ああそうだな」。
![]() |
北山河俳画集 |