2011年3月27日日曜日

I LOVE 俳句 Ⅰ-(10)

水口 圭子


 たましいを彫刻したる吹雪村 吉田透思朗


ある彫刻家の作品集がある。その1ページ目は、「サキモリ」という作品名の、胸に四角の風穴の開いたブロンズの彫像が、四国側から朝焼けの瀬戸内海に向かって立っている写真である。「サキモリ」はいくつか有って、東京のギャラリーで観たことがある。しかしこの写真に出会ってからは、いつか是非この写真と同じ風景の中で観てみたいと思っている。

彫刻家の名は流政之、1923年生まれで現在88歳である。少年期より武士道と芸術の共存する環境にあり、ゼロ戦のパイロットとして敗戦を迎えた。後、戦死したパイロットの追悼のための作品作成を機に、彫刻家として活躍し始める。1964年41歳で渡米、各地に様々な作品を作り、ニューヨークのワールド・トレードセンターには、7年をかけて、2つの浮上三角が連なる形で250トンのミカゲ石の「雲の砦」を完成させた。1975年、ベトナム戦争が激しくなって来たので帰国、以後香川県高松市庵治町のスタジオを拠点とし、今でも旺盛に作品を作り続けている。

さて、その「雲の砦」だが、2001年9月11日の同時多発テロ事件の際、崩壊を免れ無事残ったものの、救助活動と復旧作業のために、跡形もなく撤去され廃棄されてしまった。2001年10月1日号のニューヨークマガジンに掲載されたテロ事件の報道写真には、煙る廃墟の手前に無傷で残った「雲の砦」が写っている。それから3年後の9月11日、鎮魂の想いが込められた「雲の砦Jr」が北海道近代美術館に甦った。

流の彫刻は殆どが抽象的な形であるが、作品名と置かれた場所を知ると、深く納得する。形が大きくとも威圧感が無く、一たびその前に立つと暫く離れられなくなる。魂がそこに還って行く様な、温かくてひどく懐かしい感じがするのである。

掲句を読んだ時、真っ先に流彫刻を思った。吹雪村の彫る彫刻はたましいの幻影だと思うが、流はたましいを込め、魂を惹きつける形を彫り続けている。