内山思考
初鰹泳ぎ足りぬと光るなり 思考
星の小父様・湯浅祥司さん |
尾鷲の青空が綺麗なのは多雨のせいだ、と以前書いたが、それは夜空にも言える。尾鷲の星々は美しい。 市の中心部にある中村山に「ふるさと創生一億円事業」として尾鷲天文科学館が建造されたのは平成二年のこと、このプロジェクトの発案者・湯浅祥司(しょうじ)さんは、五才の頃から宇宙に憧れていたという人だ。 いつも穏やかな笑みを湛え、溢れるほどの感性と知識を持ちながらそれを表に出さないところがいい。自慢めいた話もしない。
でも、アマチュア天文家としてはかなりハイレベルであることは間違いない。こういう人が身近にいると、あちらは迷惑かも知れないが、こちらは大いに助かるわけで、宇宙に関するニュース(例えば、流星群がやってくるとか、太陽の黒点が増えたとか)が流れると早速、興味津々、素人丸出しの僕の質問メールが宙を飛び、しばらくすると懇切丁寧な返事が帰って来て僕の好奇心は満足し、湯浅さんへの尊敬の念はますます深まるという具合。
標高50メートルの中村山の上、レンズ口径81センチの望遠鏡が納められた天文科学館の丸屋根は、市内のほとんどどこからでも見え、もうふるさとの景色の一部として自然に同化してしまっているようだ。 山の頂きは広くなっていて科学館の他に公園や土俵があり、市民の憩いの場所になっているが、市史によると天正10年(1582)、他郷との勢力争いが起こった時、ここで合戦があったのだという。尾鷲の地侍たちは見通しのよい中村山から敵の動向を探ったのだろう。今なら、車で一時間もあれば行ける土地の者同士が自らの領土を守るために生命をかけて戦ったのである。
尾鷲天文科学館 |
それから400年、子供たちに星を見せてあげたい、宇宙の大きさ深さを、そしてわれわれの住む地球がかけがえのない奇跡の惑星であることを知って貰いたい、そんな願いを込めて、尾鷲天文科学館・天体観測指導員、湯浅祥司さんは今夜も星空を仰いでいる。