2012年11月18日日曜日

尾鷲歳時記(95)

海洋深層水
内山思考

魚にも体温ありぬ陸は枯れ  思考

硬度330の
百%深層水飲料












海洋深層水というのは一般に、光の届かぬ200㍍以深の海水のことをいうのだそうだ。 尾鷲市古江町にある「アクアステーション(みえ尾鷲海洋深層水施設)」は賀田湾三木埼沖12・5㌔水深415㍍の海底からパイプで深層水を汲み上げ、飲料水や製塩、温浴施設などに有効活用している。過日、僕がそこを訪れたのは深層水を使ったサツキマスの養殖がおこなわれていると聞いたからであった。

サツキマスは「幻の魚」と呼ばれ、ときには一匹一万円もの高値がつくという。古江町は市内から車で20分ほど、アクアステーションは小さな港の横にあり、事前に連絡してあったので顔見知りのIさんがいろいろ案内してくれた。サツキマスは、降海型のアマゴが遡上したものをいい、温度の変化に敏感なので養殖は困難とされてきたが、一定の温度(約13~15℃)が保てる深層水を利用することにより、唯一この施設で成功したのだという。

養殖見学のあとでIさんは深層水の取水棟を見せてくれた。45㌧の水槽の下のドアを開けると地下15㍍の所に取水ポンプがある。僕たちはカンカンと靴音を響かせながら、殺風景な鉄の階段をジグザグに降りて行った。底へ着くと思ったより暖かい。

「ここがストレーナー」Iさんのペンライトが30㌢ほどの丸窓を照らした。中は海底から直に届いた海水で満たされていて、何やら赤いものが三つ…。「なにこれ?」驚いて覗き込む僕に、Iさんは沖から吸い寄せられて来た「コツノガニ」だと言った。どれもじっとして動かない。一匹は背中に大きなイソギンチャクを背負っている。

ストレーナー内の小角蟹、
上の一匹の背に磯巾着が
彼らが二度と海底に戻れないことを思うと哀れな気がした。そういえば十年ほど前、和田悟朗さんが深層水に興味を持っているようだったので、ここで淡水化して製造されているペットボトル入りの「尾鷲海洋深層水」を送って差し上げたことがあった。その時の経緯は和田さんのエッセイ集「時空のささやき」に記されている。