2012年11月18日日曜日

私のジャズ(98)

史上最強のコンボ その二
松澤 龍












最強に二つがあってはならないはず。でも、前回のマックス・ローチとクリフォード・ブラウンのクインテットに勝るとも劣らないコンボがあと二つある。あえて最強のコンボその二としよう。それはマイルス・デヴィス(正確にはデイヴィスだが)が最初に持った恒久的なクインテットである。

ピアノにレッド・ガーランド、ベースにポール・チェンバース、ドラムスにフィリー・ジョー・ジョーンズとハード・バップオールスターズのリズムセッション、それに当時新進気鋭のテナーサックス奏者のジョン・コルトレーンを加えたものである。この頃、テナーと言えばソニー・ローリンズ、ソニー・ローリンズ自身でなくとも、その亜流はごろごろしていたはずだが、彼らを起用せず未知数の新人、ジョン・コルトレーンを起用し、その将来性にかけたマイルスの慧眼に感服する。

多くの録音がプレスティッジに残されており、そのどれをとっても名演で、1950年代のモダン・ジャズ史上を綺羅星の如く飾っている。定番の一つがセロニアス・モンクの名曲、ラウンドミッドナイト。マイルスの繊細なトランペットのソロに続く、管楽器のリフ(合奏)、そしてジョン・コルトレーンのソロ、その出だしがたまらなく素晴らしい。おそらく、ジャズ史上最もスリリングな瞬間だろう。



一連のプレスティッジへの吹き込みを終えると、このコンボにはアルトサックスのキャノンボールをが加わり、三管編成となり、ドラムスは若手のジミー・コブに変わった。ピアノのレッド・ガーランドの代わりに迎えられたのは、白人のピアニスト、ビル・エヴァンスであった。黒人のコンボに白人が加わるといったちょっと異様な起用だったが、マイルスはビル・エヴァンスの将来性を鋭く見抜きあえてこれを断行したのだろう。

このセックステットでマイルスはモード奏法と言う新しい試みに挑戦を始める。その後、メンバーを一新して、ドラムスにトニー・ウィリアムスを起用したクインテットで、ジャズプレーヤーとしての頂点を極める。このクインテットがのこした一連のライブ録音はジャズ史上に残る正に、掛け値なしの金字塔と言えよう。