松澤 龍一
リック・ネルソン |
最初に買ったレコードは意外と多くの人が覚えているらしい。この質問をすると、殆どの人から返事が返ってくる。私の最初に買ったレコードはリッキー・ネルソン(後にリック・ネルソンと改名)の「トラヴェリング マン」と言う、当時EPとかドーナツ盤呼ばれていたものである。レコードの真ん中に大きめの穴が開いており、これをプレーヤーにかけるにはプラスティックで出来たアダプターが必要だった。3分程度の曲が1曲づつ裏表に録音されている。「トラヴェリングマン」の裏は「ハローメリールー」と言う曲で、こちらの方がヒットした。
リッキー・ネルソンは当時アメリカで、プレスリーに少し遅れて、続々と登場したティーンエイジャーの歌手たちの一人。ポール・アンカ、ニール・セダカ、デル・シャノン、女性ではコニー・フランシス、アメリカではなくイギリスだが、ヘレン・シャピロなどと人気を競っていた。今の団塊の世代が中学生の頃、最初に耳にした西洋の大衆音楽はこのようなアメリカンポップだった。
このように最初に西洋の大衆音楽に触れた若者が次に向かった先は大きく分けて二つある。一つはビートルズであり、もう一つはフォークソングである。どうも二つとも好きになれなかった。特にビートルズは毛嫌いをした。あの軽薄な音感になじめなかった。そんなときに出会ったのがアート・ブレーキーとジャズメッセンジャーであった。中学の一二年の頃だと思う。パリのサンジェルマンのライブ録音盤は毎日のように聴いていた。最初の曲の「モーニン」のリー・モーガン(トランペット)やベニー・ゴルソン(テナーサックス)やボビー・ティモンズ(ピアノ)やジミー・メリット(ベース)のソロなど一緒に唄えるまでになった。最後はジャケットはボロボロ、音質は針音ばかりになってしまった。恐らく、生涯でもっとも多く聴いたレコードだろう。ここから私のジャズの遍歴が始まった。